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パワーグリッド

グリーンエナジー&モビリティ

1. グリッドフォーミング制御を備えたSTATCOMによる産業用出力の改善

鉱業用施設,電気アーク炉などの産業用電気機器の負荷は,大容量かつ高速で変化し,断続的であることを主な特徴とする。これらの機器でよく見られるのは,フリッカ,高調波,不平衡,力率に関する問題である。こうした問題は,電力網の安全性・安定性の低下,発電性能の低下,グリッド接続要件への不適合を招く可能性がある。また,特に脆弱なネットワーク条件下では,ローカルネットワークの大きな外乱によって高感度の産業用電気機器の質が低下する可能性もある。送電系統の電力品質・安定性を向上させる新しいソリューションであるグリッドフォーミングSTATCOM(Static Synchronous Compensator:自励式無効電力補償装置)は,産業用アプリケーションにも適用できる。

グリッドフォーミング制御ループは,既存の電力品質制御ループと並列の補助制御として示される。また,電力品質を効果的に向上させ,系統連系要件に適合させるとともに,インピーダンス特性の背後電圧によって安定性も向上させることができる。電圧変化に瞬時に反応して対処し,高調波を抑制する。

(日立エナジー)

[01-1]産業用電気機器におけるグリッドフォーミングSTATCOMの一般的な制御ブロック[01-1]産業用電気機器におけるグリッドフォーミングSTATCOMの一般的な制御ブロック

[01-2]グリッドフォーミングSTATCOMによる性能向上[01-2]グリッドフォーミングSTATCOMによる性能向上

2. 風力発電所向けエネルギー蓄積型エンハンスドSTATCOM

世界中で,送電系統への大規模風力発電所(WPP:Wind Power Plant)の導入が急速に進んでいる。WPP内の風力タービン,送電ケーブル,その他の電気設備間の動的な相互作用は,特に,多様な運転条件下における電力系統の安定性と電力品質に対して課題がある。

エネルギー蓄積型エンハンスドSTATCOMは,大規模WPPの電力系統の統合に伴う安定性と電力品質の課題に対処するためのオールインワンソリューションである。エネルギー蓄積型エンハンスドSTATCOMは,DC(Direct Current)リンクに設けられたエネルギー蓄積システムと,グリッドフォーミング制御を組み合わせることで,以下(1)〜(3)を実現し,系統を効果的にサポートできる。

  1. 系統変動の適切な抑制(電力オーバーシュートを低減し,WPPが目標とする有効電力のステップ応答の整定時間を達成する。)
  2. 周波数変化率の改善による慣性応答
  3. 電圧全高調波歪み率改善のためのアクティブ高調波フィルタリング

エネルギー蓄積型エンハンスドSTATCOMは,定評ある日立エナジーのコンバータ技術をベースに,高い拡張性,コンパクトなデザイン,優れた効率性,容易な保守を実現する,電力系統アプリケーションに利点をもたらすソリューションである。

(日立エナジー)

[02]エネルギー蓄積型エンハンスドSTATCOMを備えたオフショアWPPの簡易系統図[02]エネルギー蓄積型エンハンスドSTATCOMを備えたオフショアWPPの簡易系統図

3. 負荷プロファイルと周囲温度に基づく太陽光および風力発電向け配電用変圧器の定格電力の定義手法

[03]変圧器の定格容量定義の提案フローチャート[03]変圧器の定格容量定義の提案フローチャート

電力系統に高い安全性と信頼性で再生可能エネルギーを統合するには,複雑な技術的ソリューションが必要となる。これに対し,技術的パラメータと財務的パラメータの最適化に焦点を当てながら,再生可能エネルギーの大規模発電所で使用される昇圧トランスの定格容量を定義する手法を開発している。

再生可能エネルギー源は元来,間欠的な特性を持つため,ピーク発電量に基づく従来の定格容量の定義では,平均負荷が定格電力よりも大幅に低くなるため,設備を十分に活用できない。

総設置コストを削減し,再生可能エネルギー発電の拡大に弾みを付けるため,技術的要件への完全準拠と併せて経済的分析を実施した。従来の熱評価および効率評価に加え,変圧器の動作をシミュレートするアルゴリズムを開発し,動作温度,コイルの各セクションの含水量,および対応する経年劣化を計算し,これらのパラメータを集約して装置の総寿命を推定した。この計算により,定格銘板以上の負荷を安全にかけることが可能になり,経年劣化だけでなく,負荷の上昇による故障リスクも正確に評価できるようになる。

(日立エナジー)

4. エネルギー市場向けの確率的価格予測

電力市場の取引業者は,エネルギー価格の予測を,その日,およびその時間の入札を決定するための重要な情報として使用する。多くの市場価格予測ソリューションは期待値の予測を生成するのみであるが,解釈可能なアルゴリズムは,利益の最適化をめざす低入札価格のアルゴリズムにさらなる利益をもたらす。また一方で,「確率的予測」として知られる不確実性を定量化することもできる。

Hitachi Energy Research が開発した機械学習に基づくエネルギー市場向け確率予測モデルは,価格帯に合わせて確率を提供し,より適切な入札の策定をサポートする。開発した予測モデルは,価格曲線の特性を考慮し,エンドツーエンドで学習され,基本的なトレンドや季節変動を自動的に推定し,外部変数やイベントがエネルギー価格に与える影響を定量化できる。確率的な推定値を提供するため,複数の分位数を関連する確率とともに予測する。このモデルは,カリフォルニアISO(International Organization for Standardization)とミッドコンティネントISOで評価され,他の最先端の予測モデルよりも優れていることが分かった。説明可能な季節性モジュールでは,学習した季節変動とエネルギー価格のイベントの影響もレポートされる。

(日立エナジー)

[04]確率的エネルギー価格予測とモデルによって学習された解釈可能な季節変動[04]確率的エネルギー価格予測とモデルによって学習された解釈可能な季節変動

5. 世界初の洋上風力発電用小型冷却乾式変圧器

[05]SaitecのタワーにCompactCoolユニットを設置する様子[05]SaitecのタワーにCompactCoolユニットを設置する様子

発電がクリーンエネルギー源へと移行を進める中,技術的課題を克服するため,風力発電産業からの新たな需要に対応する変圧器の設計開発の動きが活発化している。

この洋上風力発電用小型冷却乾式変圧器の強化された冷却コンセプトの主な利点として,乾式変圧器の設置面積の大幅な削減,冷却水の量が最小限で済むので人と環境に対して安全性が実証された信頼性の高い資産であること,タービンの既存の中央冷却システムを利用しているため周囲の部屋への熱の放散を回避できる可能性があることが挙げられる。

さらに,大容量の乾式変圧器,海上・都市部にある変電所のような狭小空間に設置されるユニット,従来の空冷ユニットでは熱除去が複雑な高度IP(保護等級)対応のアプリケーションなど,その他の用途への拡張が容易であることもこの新技術の利点である。

最終デモ機で成功を収めた加熱,振動,短絡試験など一連の試験を含む長い試用期間を経て,2023年9月に,洋上風力発電セグメント向けCompactCool技術を搭載した初めて※)の乾式変圧器がSaitec Offshore Technologies社によって稼働し,電力の供給が開始された。

(日立エナジー)

※)
日立エナジー調べ。

6. 洋上HVDCグリッド―再生可能エネルギー送電の新たな展望

欧州の洋上風力発電は目覚ましい発展を遂げている。洋上風力発電は2050年までに温室効果ガス排出量をネットゼロにするために不可欠であり,欧州以外の地域も今後数年でこの動きに追随することが見込まれている。

そのために,極めて重要な技術となるのがHVDC(High Voltage Direct Current:高圧直流)送電であり,特に1997年に日立エナジーが初めて開発したVSC(Voltage Source Converter:電圧源コンバータ)ソリューションは,現在も高出力,小型化,高効率化に向けた開発が進められている。

再生可能な自然エネルギーのHVDCによる接続と配電が普及し,ポイントツーポイントの洋上接続から洋上ハイブリッドシステム,さらには洋上グリッドへとシフトしていくことで,さまざまな社会経済的利益がもたらされる。このような目標を実現するためのテクノロジーはすでに存在しており,すでに洋上DC(Direct Current)グリッドの計画,建設,運用,保守を実施するための適切な枠組みを構築し,迅速かつ大規模に展開する段階にきている。

これを実現するには,新たな規制アプローチと革新的なビジネスモデルが不可欠である。また,業界全体のイノベーションプロジェクトを通じて実証されたとおり,DCグリッドの拡張性によりクリティカルなHVDCソリューションの相互運用性が促進される。

今後,日立エナジーは再生可能エネルギー送電の次なるフロンティアを築く,本格的な洋上グリッドの構築に注力していく。

(日立エナジー)

[06]英国ドッガーバンクの洋上変換所(出典:日立エナジー,クレジット:Aibel)[06]英国ドッガーバンクの洋上変換所(出典:日立エナジー,クレジット:Aibel)

7. フルデジタル変電所と接点ベースの従来型変電所間の距離保護

電力網におけるIEC(International Electrotechnical Commission)61850の普及は着々と進んでおり,WAN(Wide Area Network)を介した変電所間通信をサポートするまでに進化している。IEC 61850ベースの送電線保護を実装するには,保護の対象とする送電線に接続されるすべての接続箇所においてデジタルの概念が必要となる。しかし,既存の従来型変電所をデジタル変電所に段階的に更新していくことから,概して現状は異なる。

そこで日立エナジーでは,従来のテレプロテクションソリューションと最新のIEC 61850保護システム間の相互運用性を提供するソリューションを開発した。これにより,伝送路保護アプリケーションを含むデジタルコンセプトへの段階的な移行が可能になるとともに,新たな保護ソリューションやマルチベンダー展開への道が開かれる。スマートゲートウェイは,マルチプレクサプラットフォームFOX615のBIGO1モジュール,あるいは送電線保護通信ターミナルNSDなどでスタンドアロンソリューションとして提供されている。コア機能はゲートウェイIED(Intelligent Electronic Device)としてデジタル変電所環境に関与することであり,それによって関係部門間の明確な責任境界,サイバーセキュリティ上の強力な境界線,保護性能の向上,監視および保守機能の強化など,複数のメリットを提供する。

(日立エナジー)

[07]従来型変電所とデジタル変電所のギャップを解消するBIGO1-TEPI2を備えたFOX615[07]従来型変電所とデジタル変電所のギャップを解消するBIGO1-TEPI2を備えたFOX615

8. データセンター向け3ポートSSTのシステムモデリングと信頼性の研究

Microsoft,Google,Metaといった大手データセンター事業者の多くは,2025年あるいは2030年までに24時間365日(常時)供給可能なカーボンフリーエネルギーを実現するという,難易度の高い持続可能性ロードマップに取り組んでいる。

本研究では,従来の交流配電システムと同等の極めて高い可用性および信頼性を備えたデータセンター向け直流配電方式を提案する。この方式には効率性と制御性の面で大きな利点があり,MV SST(Middle Voltage Solid State Transformer)を直流配電の核として,具体的には太陽光発電,燃料電池,UPS(Uninterruptible Power System)の統合に主眼を置く。特に,本研究で提案する,MVDC配電とLVDC(Low Voltage Direct Current)バスをIT機器に接続するUPS付き3端子SSTは,変換段数の削減によって部品点数,コスト,信頼性,効率面で大きな利点があることが実証されている。

提案する直流配電方式は,2030年の持続可能性ロードマップ(24時間365日,再生可能エネルギー源から100%供給)にコミットした将来のグリーンデータセンターに向けて柔軟なソリューションを提供する。

(日立エナジー)

※)
論文全文はIEEE EPE-ECCE 2024で発表。

[08]3ポートSSTによるDCグリーンデータセンターの効率,信頼性,可用性の向上[08]3ポートSSTによるDCグリーンデータセンターの効率,信頼性,可用性の向上

9. 再生可能エネルギーの普及拡大のための革新的な線路保護技術

全世界の再生可能エネルギーの設備容量は,2050年までに約85%増加すると予想されている。この移行を後押ししているのは温暖化ガス削減目標,エネルギー安全保障,経済的要因である。化石燃料ベースの発電とは異なり,再生可能エネルギーはパワーエレクトロニクスコンバータを介して電力系統に統合される。

線路保護における主な課題は,コンバータの制御と系統連系要件によって左右される,特有の故障応答である。従来の系統に対して設計された数十年前の保護アルゴリズムでは対応できなくなってきており,実際にさまざまな電力会社からリレーの故障が複数報告されている。

将来も使い続けられる線路保護を実現するため,日立エナジーは,再生可能エネルギーの故障特性に関する新たな理解,系統連系要件,コンバータ制御,および変電所保護に関する長年のノウハウを基に,革新的な技術を開発した。この技術は信頼性が高く,従来のソリューションと比較して大幅な改善をもたらす。具体的には,事故分類,方向検出,距離保護の主な三つのモジュールの信頼性性能において,それぞれ71%,48%,31%改善した。この技術は,追加のハードウェアやインフラのアップグレードを必要とせずに既存のリレープラットフォームに実装できるため,全体的なソリューションコストを削減できる。

(日立エナジー)

[09]再生可能エネルギーに接続された電力網のための線路保護リレーの信頼性と実験結果の概要[09]再生可能エネルギーに接続された電力網のための線路保護リレーの信頼性と実験結果の概要

10. 送電網向けの低コスト故障箇所特定技術

電力会社において送電線上の故障箇所の特定は,故障箇所の速やかな修理や,電力供給の迅速な復旧により停電時間の短縮につながるため,経済的損失の軽減に大きく寄与する。日立エナジーは,変電所の先進的な通信機能と当社の数十年にわたる電力系統の保護・制御・通信における経験を生かして,低コストで設定不要の電力網用故障箇所特定技術を開発した。

この手法をPOWERGRID社(インド)の400 kV,233.07 kmの送電線,およびSvenska Kraftnät社(スウェーデン)の220 kV,265.6 kmの送電線のリレーに実装し,実証試験を行った。この実証試験と研究室での実験結果から,この手法では2基の鉄塔間(約300 m)の故障を特定できることが確認された。これは,1,000倍のサンプリングレート,高価なハードウェア,複雑な試運転,設定を要する進行波ベースの技術に匹敵する結果である。この技術はエンジニアリングコストを削減し,設定が不要で,現代の線路差動保護ソリューションに必要なもの,つまり2 Mbpsの通信リンク以外に追加のハードウェアを必要としない。

(日立エナジー)

[10]ダブルエンド型故障箇所特定パイロット施工の構成[10]ダブルエンド型故障箇所特定パイロット施工の構成

11. 抵抗先行投入方式に代わる制御スイッチングによる送電線の過電圧緩和

[11]送電線の自動再閉路時のスイッチング過電圧の統計分布[11]送電線の自動再閉路時のスイッチング過電圧の統計分布

従来,送電線の(再)通電時の過電圧を緩和するには,CB(Circuit Breaker)にPIR(Pre-insertion Resistor)が使われてきた。近年,同じ目的でCS(Controlled Switching)が採用され,成功を収めている。日立エナジーでは,送電線にCSを適用する際に最も懸念される事象である過電圧と電流ゼロ点遅延を防止する新しいCSデバイスを開発している。二次アークの消滅を検出して線路構成を動的に変更するための新しいアルゴリズムにより,再閉路の成功がさらに確実なものとなる。

シミュレーション研究の結果,CSは線路の過電圧を指定された動作限界内に制限し,PIRを使用した場合と同様の結果を達成した。この研究では,さまざまな線路構成(多様な線路長および補償レベル)およびスイッチングシナリオ(無電圧送電線閉路,自動再閉路)を対象とした※)

両端に避雷器を備えたシャント補償送電線の受電端における,1線地絡事故後の自動閉路時のスイッチング過電圧の統計分布では,制御による閉鎖とPIRのいずれも,過電圧を大幅に緩和し,許容範囲内に収めていることが確認できた。

(日立エナジー)

※)
U. Parikh, N. Dubey, M. Stanek, M. Palazzo, “Feasibility of point-on-wave switching as replacement of pre-insertion resistors for switching overvoltage mitigation on long transmission lines”. 2023 CIGRE Canada Conference & Exhibition, Vancouver, BC, Sept. 25-28, paper no. 663.

12. 地域公共交通機関の電化・運用および充電戦略

[12]スウェーデンのヴェステロース車庫に導入された電気バス充電装置[12]スウェーデンのヴェステロース車庫に導入された電気バス充電装置

進行する気候変動による被害を抑えるため,CO2排出量の抑制は喫緊の課題である。交通機関,特に地域の公共交通車両は,現在CO2排出量およびその他の汚染物質の16%を占めている。したがって,公共交通車両の電気自動車への移行を促進することが重要である。

現在利用可能な充電技術では,全長24 mまでのバッテリー式電気自動車を採用することで,高速大量輸送を含む都市公共交通機関のニーズをすべて満たすことができ,その他の電気牽引ソリューション(トロリーバスなど)と比較してTCO(Total Cost of Ownership)の面で大きな利点がある。TCOを最適化するには,同一都市ネットワーク内のさまざまな交通ニーズに対応するために,幅広い充電戦略や技術を採用する必要がある。

日立エナジーは,多様な各都市固有の交通ニーズに合わせてソリューションを最適化するGrid-eMotionテクノロジープラットフォームを開発した。特長は以下のとおりである。

  1. 夜間の車庫での低速充電(Grid-eMotion Fleet)
  2. 終点での急速充電(Grid-eMotion Fleet)
  3. 終点や中間停留所での超高速充電(Grid-eMotion Flash)

Grid-eMotionは,持続可能なエネルギーの未来を支えるうえで重要な役割を果たすソリューションである。

(日立エナジー)

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