9.バーチャルパワープラント
太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー電源の普及拡大は,系統にさまざまな課題を生じさせつつある。日立は, EV(Electric Vehicle:電気自動車)や蓄電池,ヒートポンプなどの分散型エネルギー源によるDR(Demand Response)を活用し,ICT(Information and Communication Technology)を用いたアグリゲーション※1)・計画・制御により,これらの分散型エネルギー源を束ね,あたかも一つの従来型電源のように制御・活用する技術であるVPP(Virtual Power Plant)のソリューションに取り組んでいる。
米国ハワイ州では,2つのプログラムによって分散するエネルギー源を統合し,系統運用に活用するVPPの実証運用※2)を実施した。
1つはDRプログラムであり,住宅に設置されているEVや給湯器などの主要負荷に対して応答の速いDLC(Direct Load Control:直接負荷制御)を行う系統過負荷時の緊急負荷抑制や,需給計画から負荷調整スケジュールを作成し,各EVの利用設定を考慮したDRが電力システム上のピークを緩和できることを確認した[図9-1(左)参照]。
もう1つはVPPプログラムであり,前述のDRプログラムをさらに発展させたもので,系統への逆潮流可能な大量の蓄電池をアグリゲーションし,VPPとして需給調整を行いつつ運用する。EVユーザー宅に設置したV2G(Vehicle to Grid)対応のPCS(Power Conditioning System)を利用し,深夜および太陽光発電の発電電力が多くなる供給余裕時間帯に充電し,夕方など需要ピーク時間帯に放電することを基本的な動作としている。同図(右)の赤い実線が,各EVが通常運用で充電を行った電力実績の平均を表している。これに対し,放電方向および充電方向の棒グラフが,VPPプログラム実施期間中の充電および放電を表している。充電方向については,電力システムのピーク時間帯(18時〜21時)を避けて深夜帯に充電し,放電方向については,ピーク時間帯(18時〜21時)に放電をしていることが分かる。
以上の2つのプログラムの実証結果から,DRとVPPによる調整力が系統運用のリソースとして活用できることが確認できた。
英国マンチェスターにおけるスマートコミュニティ実証事業※2)では,需要家側に分散する蓄エネルギー源を対象にVPPを活用し,電力自由市場で各種サービスを提供するVPPのサービス実証を実証パートナーと共に行った。
1つは,各住宅に設置した550台のヒートポンプを活用した負荷の電力調整力をアグリゲーションし,まとまった電力調整力を電力取引市場や電力小売,系統運用者など電力事業関係者向けに取引するVPPプログラムである。利用者が設定した温度に対して温度差が2℃以上になると,DRプログラムが自動で離脱する機能,および利用者の手動操作による離脱機能を搭載することで,利用者の保護と利便性を確保しており,需要家の83%以上はDRを意識せずに電力を利用することができた。調整力の活用により7つのユースケース(図9-2参照)が可能であり,当初目標のネガワット量創出を確認し,アグリゲーターとの取引におけるDRがレギュレーションを満たすと評価された。
もう1つは,VPP事業から得られるデータを活用し,差別化や囲い込み,収益向上を目的とした付加価値サービスを行うデータ活用プログラムとして実施した,テレケアサービスである。実証ではVPPからの電力・温度と,ドアやモーションセンサーなど追加専用センサーのデータから,在宅状況や自動音声電話による状態確認,ケアマネージャとのチャット機能やケア履歴管理のIT化を行い,テレケアサービスの業務効率の改善と,データ活用サービスによる事業性改善効果を確認した。
以上の2つのプログラムから,電力自由市場の電力事業者へのVPPによる各種サービスが実現可能であることを確認できた。
日本でも2020年頃の電力システム改革第3段階に向け,電力事業の自由化は段階的に行われている。2017年にはネガワット取引市場の開設や系統運用者からの調整力公募が開始され,経済産業省がバーチャルパワープラント構築実証事業補助金を打ち出すなど,VPP導入が促進されている。また,自由化による競争の影響から需要家獲得ソリューションのニーズが高まっており,日立は,電力自由化が先行している海外の実証成果と運用ノウハウを基に,系統運用者や小売事業者・アグリゲーターが運用すると想定されるVPPとデータ活用ソリューションで,電力事業のニーズと課題に取り組んでいく。
- ※1)
- 分散型エネルギー源を群として束ねること。
- ※2)
- 経済産業省およびNEDO(New Energy and Industrial Technology Development Organization:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の補助による実証事業。
9-1.DRプログラム(左)とVPPによる充放電マネジメント(右)
9-2.サービスユースケース