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COVER STORY:CONCEPT

デジタル技術の活用と協創で社会価値・環境価値を創出

世界の水環境・資源循環に貢献する日立グループ

ハイライト

急速に進むグローバリゼーションは,経済発展とともに気候変動や水不足,資源の枯渇,貧困や教育環境など,世界が直面するさまざまな課題の顕在化をもたらした。持続可能な世界の実現に向け,それらの課題を克服することをめざして国連が掲げた17の開発目標SDGsには,政府だけでなく産業界の積極的な関与が期待されている。

社会イノベーション事業をグローバルに展開する日立グループは,サステナビリティを経営の柱の一つとして位置づけ,事業を通じたSDGsの達成への貢献をめざしている。日立グループのサステナビリティ・環境経営について,社会の持続可能性をさらに高めるうえで欠かせない水環境インフラと資源循環にスポットを当て,それぞれの取り組みについて聞いた。

目次

「環境イノベーション2050」でめざすもの

高橋 和範
日立製作所 サステナビリティ推進本部 副本部長

原田国連の掲げるSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)への関心が高まる中,企業にとってサステナビリティへの対応はグローバル事業の展開を左右する要件になりつつあります。また,最近はESG(Environment,Social,Governance)投資のような形で,社会価値や環境価値などの非財務的価値が注目され,企業における環境問題の捉え方もリスクからチャンスへと変わりつつあります。日立グループは,これらに対してどのように取り組んでいるのか,まずコーポレート部門からご紹介ください。

高橋サステナビリティという課題は,ローマクラブが1972年に発表した『成長の限界』をはじめ,かなり以前から指摘されてきました。環境問題という意味では,地球温暖化のほか,本日のテーマである水・資源についても枯渇の可能性が以前から指摘されています。それらに対する具体的な取り組みが加速し始めたのは,SDGsの中で世界共通の課題として気候変動への対応,安全な水へのアクセス,責任あるモノづくり,資源循環などが掲げられたことが大きいと思われます。

また,ESG投資が広まってきた背景には,リーマンショックの一因となったショートターミズムへの反省といったものもあるのでしょう。持続可能な社会の実現には経済活動の持続可能性を高めることが重要であり,そのためには企業が長期的視野を持ち,事業を通じて社会的責任を積極的に果たしていくべきであるという意識が広まっています。

そうした中で日立は2016年に,生活の質の向上と持続可能な社会の両立を実現する「環境ビジョン」を環境経営においてめざす姿として掲げ,「低炭素社会」,「高度循環社会」,「自然共生社会」の実現に向けた環境長期目標「環境イノベーション2050」を策定しました。この中では,日立のバリューチェーンを通じてCO2排出量を2050年度までに2010年度比で80%削減,水・資源利用効率を2050年度までに2010年度比で50%改善,自然資本へのインパクトを最小化するなどの目標を設定しています。地球温暖化のように目に見える形での影響がある気候変動に注目が集まりがちな中で,資源循環や自然との共生も重視していることが日立の取り組みの特徴です。資源枯渇への対応,生物多様性や生態系の保全は,サステナビリティという観点から軽視できないものです。広い視野での環境経営を推進することにより,事業の持続可能性と社会の持続可能性をともに高めていくことをめざしています。

社会で大きな役割を担う水インフラと資源循環

大西 真人
日立製作所 水・環境ビジネスユニット CTO

原田続いてサステナビリティにおいて重要な水環境と資源循環について,事業部門の取り組みをご紹介ください。

大西日立は浄水場や下水処理場などの電気・機械設備,効率的な水管理に関わる監視制御や運営管理などのOT(Operational Technology)を主とした水インフラ事業を長年にわたって手がけており,近年ではそれらにITを融合させたトータルな水環境ソリューションをグローバルに提供しています。2019年4月からは水ビジネスユニットが水・環境ビジネスユニットとなり,これまで以上に環境や社会への影響を意識した形での水環境ソリューションの提供に力を入れています。

水は生活だけでなく生命を支える大切な社会インフラであり,水の安全・安心かつ安定的な供給が,社会インフラ基盤の強靭化につながります。水インフラ事業では,単に省エネルギーなどの性能の高い設備を納めるだけでなく,「水環境を通じた社会価値の提供」を重視しています。SDGsで言うと,6番目の水不足や水質汚染への対応だけでなく,9番目の産業の基盤,11番目のまちづくり,また4番目の教育の課題解決にも貢献できるような事業を推進しています。

例えば,海外では水不足や水インフラの未整備により,水を得るために多大な労力を要する地域がまだ多くあります。日立がそうした地域に造水技術などを提供することにより,単に水を便利に使えるようになるだけでなく,それまで水を得るために使われていた労力をより生産的な活動に振り向けることで,新しい産業を興す,あるいは,子どもたちが水汲みの労働から解放されて教育の機会を得られるなど,地域の活性化や生活水準の向上につながる価値も提供できるのです。このように,お客様はもちろん社会全体に貢献していくという視点で事業に取り組んでいます。

日立の環境ビジョンと環境長期目標

川上日立は1990年代初頭から,製造業としての社会的責任を重視し,資源循環や廃工業製品リサイクルを独自に行ってきました。その取り組みや技術は,2001年の家電リサイクル法(特定家庭用機器再商品化法)施行の一助となっており,東京エコリサイクル株式会社はその家電リサイクル法と2003年施行のPCリサイクル法(改正資源有効利用促進法のPCに関する追加条項)に基づいた家電4品[エアコン,テレビ(ブラウン管,液晶・プラズマ),冷蔵庫・冷凍庫,洗濯機・衣類乾燥機],パソコンや液晶モニタなどのリサイクルを担っています。また,日立グループ製品を中心とした産業用機器のリサイクル事業も行っています。

リサイクル事業は経済産業省が推進する資源循環政策と直結し,SDGsの12番目の目標が意味する責任ある生産と消費に深く関係しています。責任ある生産とは,生産者が顧客に製品を提供するだけでなく,原材料の選択から製造工程,使用,破棄まで製品のライフサイクル全体における環境負荷に対して一定の責任を負うことです。

日本における家電リサイクルは,消費者が費用負担に協力し,小売店が回収を引き受け,メーカーがリサイクルするという仕組みを法律の下できちんと構築できたことにより,20年近くにわたって安定的に運用されてきました。現在は全国に49か所の家電リサイクルプラントが稼働しており,大型家電品の処理代数は2001年度から2018年度の累計で約2億3,000万台に達しています。

その中で日立は,当社のほかに北海道エコリサイクルシステムズ株式会社,株式会社関東エコリサイクルの計3社を擁し,2018年度は約140万台の大型家電品のリサイクルを実施しました。回収した金属は製鋼メーカーや精錬メーカーを通じて資源に有効活用され,プラスチックやレアメタルは日立グループ内で資源循環しています。また,日立金属株式会社などグループ各社と協力してネオジム磁石のリサイクルのほか原料リサイクルに取り組み,ヘルスケアビジネスユニットが提供する医療機器への一部再利用も実施しています。

そうした資源循環の一環として,当社が株式会社日立産機中条エンジニアリングとの協業で取り組んでいる,日立グループ内の情報・通信機器のリサイクルによるベースメタルとレアアースの国内資源循環の取り組みは,2018年にリデュース・リユース・リサイクル推進協会が主催する「3R推進功労者等表彰」にて経済産業大臣賞を受賞しました。

水環境ソリューションのめざす方向

デジタル技術によりソリューション,サービスを高度化

川上 信彦
東京エコリサイクル株式会社 代表取締役社長

原田AI(Artificial Intelligence),IoT(Internet of Things),ロボティクスなどのデジタル技術による産業や社会の変革が進み,日本政府が提唱するSociety 5.0,サイバー空間とフィジカル空間を融合した人間中心の超スマート社会の実現に向けた官民挙げての取り組みが加速しています。サステナビリティを高めるには,水環境や資源循環の分野でもそのようなデジタルトランスフォーメーションの潮流を取り込んでいくことが重要になりますね。

高橋環境問題に適切に対処するためにはまず正確な現状把握が欠かせません。IoTをはじめとするデジタル技術の進展は,現状把握のための詳細なデータの取得と分析に大きな威力を発揮するでしょう。例えば,センサーを使って工場の生産ラインにおける水の使用状況を細かく把握して改善につなげることや,漏水の発見にも活用できると思います。また,資源については,リサイクル段階まで含めたトレーサビリティシステムの構築も可能になるのではないかと期待しています。

大西水環境分野では,これまで培ってきた水インフラのOT,ITとプロダクトをつなぐデジタルソリューションの強化に向けて,2018年に上下水道事業の運用・保全業務に資するクラウドサービス「O&M(Operation and Maintenance)支援デジタルソリューション」の提供を開始しました。IoTを活用して設備や運転の状況,作業記録,故障・修理記録などのさまざまなデータをクラウド上に収集し,AIによる分析やAR (Augmented Reality)などで,運用・保全業務の効率化・省力化や可視化,ノウハウの継承などを支援するサービスです。こうした新しい技術やサービスを,今後,実際にわれわれが運営に関わるサイトに適用して効果を実証し,より多くのお客様に提案していく計画です。

また,地中埋没インフラの効率的な保守管理を実現するデジタルプラットフォームを構築し,それを活用したサービスの第一弾として水道管の漏水を高精度で素早く特定するシステムを開発しました。このシステムは,低電力で高感度なデータ収集を可能にする新開発の振動センサーと,これまで蓄積してきた漏水検知に関する知見やノウハウを活用したデータ分析技術を組み合わせることで実現しており,2020年度の実用化に向けて実証実験を進めています。

川上リサイクル現場では属人的なスキルやノウハウへの依存度が高く,デジタル技術の活用がまだあまり進んでいません。ただ,熟練の作業者の高齢化が進み,今後の人手不足も確実視される中で,リサイクル現場,リサイクルビジネスにおけるデジタル化と機械化の徹底を図ることは不可欠になります。当社としても,省人化や無人化を見据えた自動分解ロボットの導入,IoTの活用によるモニタリングプロセスの高度化,可視化によって保守管理や発電の効率化を実現していきたいと考えています。

バリューチェーン全体に関わるサステナビリティ

原田 泰志
日立製作所 研究開発グループ エネルギーイノベーションセンタ 主管研究長

原田持続可能な社会の実現には,社会のさまざまなセクターと広く連携していく必要があり,オープンイノベーションや顧客協創の重要性も増していますね。

高橋おっしゃるとおり環境問題は自分たちだけが活動すればよいというものではなく,バリューチェーン全体で考えることが大切です。循環型社会の大きなループの一員としての役割を果たしていくために,自社の取り組みだけでなく,サプライヤやお客様の水や資源の使用についても一緒に考え,削減や循環について提案して一緒に取り組んでいくことが,日立にとってこれからの課題になると思います。

大西直近の協創事例では,2019年3月から大阪市水道局と,LumadaのIoTプラットフォーム,AIやビッグデータ解析技術を活用して中長期の水需要を予測する手法を開発し,それに基づく最適な水事業経営をめざすための共同研究を開始しました。水環境インフラは,もともとお客様と一緒に作り上げるものであり,国家プロジェクトのようなオープンイノベーションも数多く行われてきました。最近は異業種のプレーヤーも加わり,それぞれの得意分野を生かして全体のシステムを完成させるというスタイルも増えています。よりよいシステム,ソリューションを作り上げていくために,われわれもお客様との協創とともに,業種を越えたオープンな連携を進めていく考えです。

川上家電リサイクル事業は自社製品だけを扱うのではなく,大手メーカーが二つのグループに分かれて管理会社を設立し,リサイクルを行っています。当社でも他社製品を扱っており,さまざまな型式や材質の家電を分解しリサイクルするためには,知識や技術を要します。そのため,管理会社がリサイクル技術や製品情報を管理し,グループ内に発信しているほか,各リサイクルプラントが開発した技術やシステムの共有も行っています。オープンイノベーションによってグループ全体のレベルアップを図っていると言えるでしょう。

東京エコリサイクル株式会社のリサイクル工場外観

グローバル共通課題に向き合う

原田水や資源の循環はそれ自体がグローバル課題と言えますが,グローバル社会や地域課題への取り組みについてはいかがですか。

高橋サステナビリティ,SDGsそのものがグローバルな課題であり,それらに取り組むこと自体がグローバル活動だと言えます。最近の世界のホットイシューとしては海洋プラスチック問題が挙げられますが,日本政府もプラスチック資源循環戦略を打ち出し,対策を始めています。それに伴い経団連や電機・電子業界も削減目標の設定に動き始めており,日立としてもその役割を果たしていく考えです。

大西水環境ビジネスは,世界の水不足に苦しむ地域をなくしていくためにグローバル展開を加速しており,国・地域ごとに異なるニーズや規制に対応しながら,海水淡水化,水の再利用などの造水技術,排水中の窒素を除去する高度処理技術などを提供しています。

グローバルビジネスでは,国際標準化への対応も重要です。これは一企業で取り組むことではなく公的機関との連携が重要になりますが,日立としては標準化に積極的に貢献することで,日本企業が参入しやすいグローバル市場の形成にも寄与したいと考えています。

川上2009年に中国で家電リサイクル法(廃棄電気電子製品回収処理管理条例)が制定されたことを機に,日立製作所と中国国家発展改革委員会が家電リサイクル分野での技術供与に関する調印を行ったことを受け,当社が中心となって2013年までに5件の技術供与を有償で実施しました。この事例を,プラントそのものを輸出するモノ売りから,サービスや技術コンサルティングを提供するコト売りへの転換点とし,今後は資源循環に関するサービスビジネスのグローバル展開を加速していく考えです。

当社はこれまで,G7の環境大臣会合で日本を訪れた要人をはじめ,50か国以上からの視察を受け入れ,さまざまな取り組みを紹介しています。そうした意味では,日本の進んだ技術やスキームを紹介することも,グローバル活動と言えるかもしれません。

社会イノベーション事業により社会価値・環境価値を創造

原田日立は2019年5月,SDGsや地球環境問題への貢献,社会イノベーション事業を担うグローバルリーダーをめざすというビジョンを掲げた2021中期経営計画をリリースしました。この新たな挑戦に向けての皆さんの意気込みをお聞かせください。

高橋2021中期経営計画では,社会価値・環境価値・経済価値の向上をめざすことを明確に謳っています。社会イノベーション事業を通じて社会に貢献していくという方針自体はこれまでも訴えてきましたが,例えば水環境では,上下水道,海水淡水化技術により,世界中でのべ7,000万人/日に安全・安心な水環境を提供するといった数値目標を示し,社会への貢献をより強く具体的に打ち出しました。この実現に向けて,事業ではお客様への提案の中に社会価値や環境価値を組み込んでいくことを,これまで以上に意識していただきたいと思います。われわれもそのサポートに一層,力を注いでいきます。

大西水環境ビジネスでは,以前からPFI(Private Finance Initiative)事業や包括委託事業などの形で,官民連携によるインフラ運営を行ってきました。2018年の水道法改正により,今後水道事業へのコンセッション方式の導入が進むと予想されますが,人口減少を受けて上下水道の運営・管理にあたる人財の不足が懸念され,老朽化対策も急務となる中で,官民連携の重要性は今後ますます高まるでしょう。日立は,これまでの運営事業を通じて機器のトラブルに即応する体制を整えており,お客様との信頼も築いてきました。それらに加え,蓄積してきたノウハウや知見を生かしてお客様の課題解決に一体となって向き合い,最新のデジタル技術も取り入れて運営サービスのさらなる充実,高度化を図ります。それによって引き続き水の安全・安心を守っていくとともに,社会イノベーションに貢献していきます。

川上Society 5.0の動きが加速する中で,資源の多消費時代から,資源循環を通じて持続的で人と自然が共生できる社会への転換が求められています。日立環境イノベーション2050で掲げる高度循環型社会の実現に貢献するためにも,東京エコリサイクルは日立グループと一体となって,高度な分解・選別技術,リファービッシュやリマニュファクチャリングなども含めた循環型ビジネスモデルの普及のための技術,リサイクル設備の安全・安定な操業や効率性向上に資する技術,センシング技術などの開発を進めていきます。最新技術を取り入れながらリサイクル業界のリーディングカンパニーをめざすとともに,引き続き資源循環を通じて持続可能な社会の実現に貢献していきます。

原田サステナビリティは社会全体に共通する基本課題であり,日立グループ全体で取り組んでいくことが重要だと改めて感じました。その取り組みをバリューチェーン全体へと拡大し,持続可能な社会のグローバルリーダーをめざしましょう。

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