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ハイライト

製造,物流,金融などあらゆる産業において,新たなデジタル技術を使ってこれまでにないビジネスモデルを展開する新規参入者が登場し,ゲームチェンジが起きつつある。こうした中で,各企業は,新たなサービスの創出や既存業務を改革するデジタルトランスフォーメーションをスピーディに進めていくことが求められている。しかし,これらの取り組みを行うためには,ビジネスモデルの創生,そのためのサービス実行環境の構築,運用・保守に至るまで,さまざまな専門技術やノウハウが必要であり,膨大なコストと時間を要するという課題がある。

日立はこれらの課題を解決し,デジタルソリューションの創生と活用を加速するLumada Solution Hubを提供している。本稿では,Lumada Solution Hubの概要とそこで活用されている技術について概説する。

目次

執筆者紹介

工藤 裕Kudo Yutaka

  • 日立製作所 サービス&プラットフォームビジネスユニット アプリケーションクラウドサービス事業部 サービス事業戦略部 所属
  • 現在,Lumada Solution Hubの事業開発に従事
  • 博士(情報科学)
  • 情報処理学会会員

三好 崇史Miyoshi Takafumi

  • 日立製作所 サービス&プラットフォームビジネスユニット アプリケーションクラウドサービス事業部 LSH事業推進センタ 所属
  • 現在,Lumada Solution Hubの事業開発に従事

清水 健二Shimizu Kenji

  • 日立製作所 サービス&プラットフォームビジネスユニット アプリケーションクラウドサービス事業部 サービス事業戦略部 所属
  • 現在,Lumada Solution Hubの事業開発に従事

高居 美緒Takai Mio

  • 日立製作所 サービス&プラットフォームビジネスユニット アプリケーションクラウドサービス事業部 サービス事業戦略部 所属
  • 現在,Lumada Solution Hubの事業開発に従事

田口 宏弥Taguchi Hiroya

  • 日立製作所 サービス&プラットフォームビジネスユニット アプリケーションクラウドサービス事業部 サービス事業戦略部 所属
  • 現在,Lumada Solution Hubの事業開発に従事

1. はじめに

近年,人工知能(AI:Artificial Intelligence)やIoT(Internet of Things)をはじめとするデジタル技術の利活用が急速に進展し,社会に大きな変化をもたらしている。特に,Uber Technologies Inc.やAirbnb, Inc.など,デジタル技術を駆使する新興企業が急速に成長し,従来の産業構造を大きく変える破壊的なイノベーションが生まれている。このような急激な変化に対する危機感があらゆる産業で強まり,各企業においては,デジタル技術を活用した新たなサービスの創出や既存業務の改革を適切かつ迅速に実現するデジタルトランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)への関心が急速に高まっている1)

日立は,社会インフラ分野を中心にプロダクトとともに培ってきた制御・運用技術(OT:Operational Technology)と,ビッグデータやAI,セキュリティなど先進のデジタル技術(IT:Information Technology)の掛け合わせにより,顧客のDXを支援するLumadaの取り組みを推進している。Lumadaのソリューションはさまざまな分野の顧客協創から生まれ,数多くのユースケースが蓄積され,現在も増え続けている。

Lumada Solution Hub2),3),4)は,これら日立のOT,IT,プロダクトの強みを生かしたLumadaのユースケースを結集し,利活用を促進することで,顧客価値の高いデジタルソリューションを迅速に創生し,顧客の成長を加速するプラットフォームである。

本稿では,Lumada Solution Hubの活用によりもたらされる,デジタルソリューションの創生を加速する課題解決に向けたアプローチと,それらを具現化する技術について述べる。

2. デジタルソリューションの創生を加速するLumada Solution Hub

2.1 DX推進の課題

デジタルソリューションの創生には,顧客の課題を抽出し,正しく捉えるとともに,これまで日立が蓄積してきたさまざまな分野のソリューションアイデアから顧客課題を解決するアイデアを見つけ,これを起点に発想するアプローチが有効である。しかしながら,現状では蓄積されたLumadaのユースケースの中から,参考にできる成功モデルが容易には見つけられないという課題がある。これらのユースケースを体系化して,実際に動作させ,即座に検証できるようにすることが重要となる。

その際,顧客ニーズに合致しそうなユースケースが見つかり,そのアプリケーションが迅速に実行できたとしても,それが顧客ニーズに完全に合致しないケースもある。アプリケーションの一部を改変したり,他のアプリケーションと組み合わせたりする必要がある場合も多く,簡易なPoC(Proof of Concept)を実施するだけでも準備に手間と時間を要するという課題がある。

さらに,PoCを終え,無事に本稼働システムを構築しサービスを開始しても,運用保守や契約管理,課金管理,ヘルプデスクの設置など,構築したサービスの運用の負荷が課題となるケースが多い。

2.2 Lumada Solution Hubによる課題解決のアプローチ

図1|Lumada Solution Hubによる課題解決の三つのアプローチ 図1|Lumada Solution Hubによる課題解決の三つのアプローチ 実績のあるLumadaのソリューションをカタログ化して流通させ,活用によるN倍化,横展開を促進する。

これらの課題に対する解決のアプローチを図1に示す。

「参考にできる成功モデルが容易には見つけられない」という課題に対しては,これまで蓄積してきたLumadaのソリューションをソリューションカタログに登録して,利用者が業種や課題,解決策の観点で検索可能にする。ソリューションカタログに登録するカタログアイテムは,クラウドなどの実行環境にデプロイすることで迅速に動作するように,実行可能なプログラムコードと環境設定情報をパッケージ化し,必要な時に迅速に環境を構築できるようにする。このようにすることで,ソリューションカタログにLumadaのソリューションやソリューションに必要な部品を登録し,活用して新たなソリューションを創出し,これを再度登録するというサイクルを作り,デジタルソリューションの創生を加速させる。

「簡易なPoCを実施するだけでも準備に手間と時間を要する」という課題に対しては,ソリューションカタログに登録されたソリューションや部品をつなぎ合わせる仕組みを提供する。ソリューションカタログに登録されたカタログアイテムは実績のあるソリューションではあるが,顧客ごとに固有の業務プロセスが存在するため,そのまま適用できるとは限らない。そのため,ユースケースに含まれるソリューションや部品,組み合わせのノウハウをブロックのように自在に組み合わせて再利用する仕掛けが必要となる。例えば,データ収集の方法や分析の方法が異なる場合,それらに対応するソフトウェア部品を組み替えられるようにし,顧客のニーズを満たすシステムを手早く構成できるようにする。

「構築したサービスの運用の負荷が大きい」という課題に対しては,マネージドサービス,業務支援サービスを提供し,運用・保守を軽減させ,主業務に集中できるようにする。ITインフラの運用保守については,それぞれのサービスの運営者が個別に実施しなくても,ツールや手順を共通化できる範囲でLumada Solution Hubの共通サービスとして提供することにより負荷を軽減する。

3. Lumada Solution Hubが提供する機能とサービス

3.1 Lumada Solution Hubの全体像

図2|Lumada Solution Hubの全体像 図2|Lumada Solution Hubの全体像 ソリューションオーナーがソリューションを開発・登録し,ソリューションインテグレーターがそれを活用・構築・カスタマイズしてクラウドサービスとしてソリューションユーザー(顧客)に提供する。運営部門は,マネージドサービスと業務支援サービスを提供する。

Lumada Solution Hubによるソリューションの提供モデルは,ソリューションオーナーがソリューションを開発・登録し,ソリューションインテグレーターがそれを活用・構築・カスタマイズしてクラウドサービスとしてソリューションユーザー(顧客)に提供するものである(図2参照)。

顧客協創の質や効率(アジリティやコストパフォーマンス)を向上させるには,ソリューションオーナーやソリューションインテグレーターの間で,開発したソリューションに関する「知識・ノウハウ」を共有・流通できる仕組みが必要である。Lumada Solution Hubでは,同図の左側に示すように,日立グループや社外パートナー(ソリューションオーナー)のソリューションや部品を「知識・ノウハウ」としてソリューションカタログに登録し,ソリューションインテグレーターが目的に合致するものを検索可能とする。ソリューションインテグレーターは,選択したソリューションをデプロイし,PoCのための環境を構築する(同図中央参照)。これらの機能により,まず,Lumada Solution Hubは既存のソリューションのショーケースとして機能する。加えて,「Node-RED※1)5),12)などの開発ツールを活用することで,アジャイル開発向けのワークプレイスとしても機能する。デプロイしたソリューションや部品をNode-REDでつなぎ,必要に応じて部品を組み替えるなどの試行錯誤により,PoCの質を高めていく。

これらの機能をユーザーコミュニティに提供することで,Lumada Solution Hubはユーザーの価値創生サイクルの活性化を支援する(同図左側参照)。価値創生サイクルでは,まず,協創によって開発されたソリューションから再利用可能な部分を抽出する。さらに,それを汎用的に利用できるように抽象化,リファクタリングして新たなカタログアイテムとして登録し,再利用する。このループを繰り返すことで,ソリューションの部品化が段階的に進む。このサイクルは,一つのプロジェクトの中での段階的な機能拡張や改良を支援するとともに,あるプロジェクトの成果の他のプロジェクトへの転用を容易にする。

このようにして構築した新たなソリューションに対して,Lumada Solution Hubは,マネージドサービス,業務支援サービスを提供する。これらのサービスにより,サービス稼働後のソリューションインテグレーターとソリューションオーナーそれぞれの負荷を軽減する(同図右側参照)。

※1)
Node-REDは,OpenJS Foundationの米国およびその他の国における登録商標または商標である。

3.2 提供する機能とサービス

図3|ポータル画面図3|ポータル画面ソリューションや部品を業種や課題,解決策で検索する画面を示す。ソリューションの詳細説明を確認することができる。

図4|Lumada Solution Hubへのソリューション登録形態図4|Lumada Solution Hubへのソリューション登録形態個別デプロイ型,API公開型,紹介型の3パターンを用意している。

(a)ソリューションや部品を共有・流通させるための機能

3章1節で述べたように,ソリューションや部品を共有・流通させるための機能としてポータル機能を提供する。ポータルでは,カタログアイテムの登録と検索が可能である。利用者は,ソリューションの分野,業種,課題,解決方法,利用可能な国と地域,価格,問い合わせ先などの情報に基づいて,カタログアイテムを探し出すことができる(図3参照)。ソリューションの稼働状況の確認などもポータルで行えるようにしている。ソリューションオーナーは,自身が所有・公開しているカタログアイテムが,どのソリューションインテグレーターによって,どの顧客に提供されていて,どのような稼働状況になっているかを把握でき,また,ソリューションインテグレーターは,どのカタログアイテムを現在利用しているかを把握できる。

ソリューションカタログに登録可能なカタログアイテムの種類として,「個別デプロイ型」,「API(Application Programming Interface)公開型」,「紹介型」の三つを用意している(図4参照)。これにより,Lumada Solution Hub上でより幅広い形態のカタログアイテムの蓄積・活用が可能である。

「個別デプロイ型」は,アプリケーションをIaaS(Infrastructure as a Service)上で実行可能な状態にパッケージ化し,デプロイして利用してもらうことを想定したカタログアイテムのタイプである。アプリケーションのパッケージ形式には,業界標準のコンテナ技術である「Docker※2)6),オープンソースのコンテナオーケストレーションシステムである「Kubernetes※3)7)とKubernetes向け業界標準のパッケージマネージャである「Helm」8)を採用しており,AWS(Amazon Web Services)やMicrosoft Azure,GCP(Google Cloud Platform)など,さまざまなインフラ,クラウド環境で動作させることができる。また,コンテナ化していないアプリケーションについては,VM(Virtual Machine)イメージの登録も可能とし,登録時のソリューションオーナーの負担を軽減するようにしている。加えて,Node-REDで開発したフローも登録可能であり,これにより,ソリューションや部品の組み合わせの知識・ノウハウの再利用が可能である。

「API公開型」は,アプリケーションの機能をAPIで公開して,他のアプリケーションから利活用されることを想定したカタログアイテムのタイプである。アプリケーションをいずれかのインフラやクラウドで動作させておく必要はあるが,自社技術をブラックボックスのまま利活用してもらうことが可能である。

「紹介型」は,「個別デプロイ型」でも「API公開型」でもないカタログアイテムのタイプで,例えば,日立グループや社外のパートナーが運営する基盤サービスや,パッケージソフトウェア,役務サービスなどを想定したカタログタイプである。

図5|Node-REDを活用したシステム開発の例 図5|Node-REDを活用したシステム開発の例 ソリューションパッケージとして登録されたソリューションをカタログ一覧から選択し,顧客データに近い環境にデプロイする。Node-REDを活用することで,工場現場から収集されるデータの種類に合わせて,部品単位でツールを組み替え・追加・削除できる。

(b)ソリューションや部品をつなぎ合わせる機能

Lumadaのソリューションは,新規システムと既存システムを連携させるSystem-of-Systemsのアーキテクチャを基本とする11)。ソリューションカタログからデプロイするソリューションや部品をマイクロサービスとして動作させ,HTTP/REST(Hypertext Transfer Protocol/Representational State Transfer)プロトコルとJSON(JavaScript Object Notation)データ形式を用いたマイクロサービスAPIで接続する。Lumada Solution Hubでは,ソリューションや部品,既存ITシステムをつなぎ合わせる機能として,Node-REDの活用を推奨している。Node-REDは,GUI(Graphical User Interface)プログラミングツールで,ITに精通していない担当者でも,多様なサービスを組み合わせたIoTソリューションの開発が可能となる。

例えば,工場IoTソリューションのPoCを実施する場合,初めにソリューションカタログから「工場IoTソリューション」を選択しクラウド環境にデプロイする。デプロイ後,工場現場との接続,基幹システムとの接続を行い,PoCを実施する。PoCの試行錯誤の過程で,データ収集・加工・蓄積を担う「Hitachi Data Hub」と接続するデータ収集部品を変更する場合は,別のデータ収集部品をデプロイして接続する(図5参照)。こうすることで,Lumada Solution Hubに登録されたソリューションと顧客ニーズの差を吸収し,ソリューションの再利用性を高めている。

さらに,Lumada Solution Hubが提供するAPI公開型サービスやクラウド事業者が提供するAPI(AI,IoT,Data Lakeなど),専業ベンダによる各種SaaS(Software as a Service)との連携もマルチクラウドの環境で行えるようにするため,ソリューションカタログへの登録方法や認証・認可,課金方式も含めAPIの利活用を促進する機能の整備を進めていく。

(c)運用保守や付帯業務を支援するサービス

運用保守や付帯業務を支援するサービスとして,マネージドサービスと業務支援サービスを提供する。

マネージドサービスは,顧客に提供したサービスの稼働開始後の運用管理・保守を支援するサービスである。Lumada Solution Hubの利用環境に構築されたサービスの稼働状況をソリューションインテグレーターやソリューションオーナーから参照可能とするほか,リソース監視,性能監視,イベントログ監視,稼働統計情報の定期レポート,セキュリティ対策を実施する。また,アクセス制御やウイルススキャン,侵入検知,ソフトウェアの脆(ぜい)弱性情報の提供やセキュリティアップデートなど,セキュリティを考慮した支援も提供する。現在はITインフラレイヤーに対するサービスが中心であるが,今後,より上位のソリューション基盤の運用保守,さらにはサービス全体の運用代行など順次サービスを拡充する計画である。

業務支援サービスは,問い合わせ窓口業務,契約業務,課金・請求代行業務など,ソリューション提供後の,主にビジネスに関わる共通業務をサポートするサービスである。日立が提供中の「TWX-21 SaaSビジネス基盤サービス」10)で培ったノウハウを活用して提供していく予定である。

※2)
Dockerは,Docker, Inc.の米国およびその他の国における登録商標または商標である。
※3)
Kubernetesは,The Linux Foundationの米国およびその他の国における登録商標または商標である。

4. おわりに

本稿では,顧客価値の高いデジタルソリューションを迅速に創生し,顧客の成長を加速するLumada Solution Hubの概要と,それを具現化する機能・サービスについて概説した。

今後も,デジタル技術を活用した新たなサービス創出や業務改革などを適切かつ迅速に実現するDXの取り組みは拡大し,それらを支援するプラットフォームの重要性が高まる。日立は,事業領域である「モビリティ」,「ライフ」,「インダストリー」,「エネルギー」,「IT」を中心に,DXのイノベーションパートナーとして顧客との協創活動をグローバルに推進していく。さらには,日立グループだけでなく社外パートナーにも,ソリューションオーナー,ソリューションインテグレーターとして,Lumada Solution Hubを活用してもらい,コミュニティ・エコシステムを構築・活性化していくことで,顧客の事業や社会における新たな価値創出に貢献していく考えである。

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