ページの本文へ

Hitachi
お問い合わせお問い合わせ

ハイライト

これまでのエレベーターやエスカレーターは一つの移動手段としてそれぞれ単体で捉えられてきたが,これからは,ビルのエントランスに入ってから自分のデスクに着くまでの「人の移動全体」を円滑にするソリューションが求められる。

日立では,昇降機の製品・サービスに関する開発コンセプト「HUMAN FRIENDLY」の目標として,人が意識せずとも円滑に目的地まで移動できることをめざしている。

このコンセプトに基づき開発された人流予測型エレベーター運行管理システム「FI-700」は,配慮が行き届いた運転で利用者の満足度を高め,ビルの付加価値向上に貢献するものである。

目次

執筆者紹介

前原 知明Maehara Tomoaki

前原 知明(Maehara Tomoaki)

  • 株式会社日立ビルシステム 昇降機事業部 開発生産統括本部 システム開発部 所属
  • 現在,エレベーター製品のソフトウェア開発に従事

羽鳥 貴大Hatori Takahiro

羽鳥 貴大(Hatori Takahiro)

  • 株式会社日立ビルシステム 昇降機事業部 開発生産統括本部 システム開発部 所属
  • 現在,エレベーター製品のソフトウェア開発に従事

鳥谷部 訓Toriyabe Satoru

鳥谷部 訓(Toriyabe Satoru)

  • 株式会社日立ビルシステム 昇降機事業部 開発生産統括本部 システム開発部 所属
  • 現在,エレベーター製品のソフトウェア開発に従事

倉金 健文Kuragane Takefumi

倉金 健文(Kuragane Takefumi)

  • 株式会社日立ビルシステム 品質保証本部 昇降機製品 品質保証部 所属
  • 現在,昇降機製品の品質保証業務に従事

柳澤 尚武Yanagisawa Hisatake

柳澤 尚武(Yanagisawa Hisatake)

  • 株式会社日立ビルシステム 昇降機事業部 事業企画本部 事業企画部 所属
  • 現在,昇降機製品の企画に従事

1. はじめに

人流予測型エレベーター運行管理システム「FI-700」は,「一人ひとりの無意識の行動に寄り添った快適な移動環境の提供」を目標として開発された,次世代のエレベーター運行管理システムである。

各時間帯における各階でのエレベーターの呼びの発生タイミングや,乗降者数をはじめとする過去の膨大な運行データをAI(Artificial Intelligence)技術で解析し,エレベーターの利用人数を予測することで,混雑が予想される階に集中的に配車するなど,効率的な運行を実現する。

また,朝の出社時間帯などに利用者が集中するエントランス階で自動的にエレベーターの呼びを登録する「自動登録運転」や,かご内カメラなどの映像から満員に近いと判断されるエレベーターは途中階で乗り場呼びが登録されても通過させる「見なし満員通過運転」など,ビルの利用者に快適な移動環境を提供する多様な運転モードを用意した。さらに,ビル設備とのデータ連携機能により,監視カメラなどから得られる人数データを活用し,より快適なビル内移動を実現するなど,ビルの高付加価値化に貢献する。本稿ではFI-700の特長と機能について紹介する。

2. FI-700の特長

日立のエレベーターは,従来のかごを効率的にサービスする「かご」志向から,ビル内の円滑な人の流れを考える「人の流れ」志向へと発想を転換した(図1参照)。

FI-700は「Human Flow(人の流れ)」をベースに,「Connect(つながる)」と「Smart(かしこい)」といった考えを加えることで,「一人ひとりの無意識の行動に寄り添った快適な移動環境の提供」の実現をめざす(図2参照)。

図1|人流予測型エレベーター運行管理システムFI-700の特長 図1|人流予測型エレベーター運行管理システムFI-700の特長 日立のエレベーターは,従来のかごを効率的にサービスする「かご」志向から,ビル内の円滑な人の流れを考える「人の流れ」志向へと発想を転換した。

図2|FI-700の基本コンセプト 図2|FI-700の基本コンセプト 「人の流れ」をベースに,「つながる」と「かしこい」といった考えを加えることで,「一人ひとりの無意識の行動に寄り添った快適な移動環境の提供」の実現をめざす。

  1. Human Flow(人の流れ)
    将来の人の流れを予測する「人流予測型制御」を採用し,ビル内の人の流れに先回りしてエレベーターをサービスすることで円滑な移動を提供する。すなわち,ボタンを押す無意識の行為に先回りして応えるエレベーター運行の実現をめざす。
  2. Connect(つながる)
    顧客のビル設備と連動し,ビル全体で人の流れに先回りして,ビルでのストレスの少ない移動環境の構築をめざす。
  3. Smart(かしこい)
    運行効率の追求だけでなく,利用者のニーズに応えるさまざまな運転モードを提供する。

3. 配慮が行き届いた新しいエレベーターの運行管理

FI-700は,エレベーターの運行において一番の課題である混雑時の長い待ち時間を解消するとともに,平常時は人の流れを予測した運転でストレスを感じさせない運行の実現をめざす。

3.1 人流予測型制御

図3|人流予測プロセス 図3|人流予測プロセス AI(Artificial Intelligence)の活用により,過去の膨大な運行データからエレベーターの利用人数(人流)を予測することで,昼食時などの混雑時の平均待ち時間を従来比で最大20%低減する。

待ち時間を短縮し,利用者が長く待たされる状態の発生を抑制することは,運行管理制御のうえで一番の課題である。日立では,その解消をめざした制御アルゴリズムの開発を続けてきた。

FI-700では,これまでと発想を変えて,「人流予測型制御」を採用した。過去の運行データから「人が呼びボタンを押すタイミング」,「その時に乗り場で待つ人数」を予測し,それに合わせてエレベーターをサービスすることで,待ち時間を従来比※1)で最大20%低減※2)し,長く待つ状態の発生を抑制する(図3参照)。

例えば,従来はエレベーターが認識した混雑時間帯は,実際の混雑時間帯に対して遅れており,事前にエレベーターを待機させておくサービスなどで遅れが生じていた。FI-700では人流予測により将来の交通流を予測し,その結果に基づいてエレベーターを事前にサービスするため,実際の交通流にマッチしたサービスが提供できる(図4参照)。

そして,人流を予測することでサービスを効率化するとともに,人の行動に合わせたスマートな運転を提供する。

図4|エレベーター運行履歴を用いた機械学習による交通需要予測 図4|エレベーター運行履歴を用いた機械学習による交通需要予測 従来の加重平均を用いた交通需要予測手法では急激な混雑状況の変化への対応に遅延が生じるという問題を解決するため,機械学習の手法を応用した。数か月間にわたって蓄積した運行履歴から需要変化のパターンを学習して利用人数の予測モデルを生成することで,混雑や閑散などのビル内の移動状況を捉えることが可能な予測手法である。

※1)
2005年9月発売の将来予測知能群管理エレベーター「FI-600」との比較による。
※2)
15階床の建物で分速150 mのエレベーター6台の運行管理を行う条件において。

3.2 FI-700のスマート運転

FI-700では,利用者のニーズに応えるさまざまな運転モードとして「見なし満員通過運転」や,「自動登録運転」,「渋滞回避運転」などを提供し,スマートな移動環境を実現する(図5参照)。さらに,これらの運転モードでは,乗り場の監視カメラの画像などの情報から画像を解析し,人数情報をエレベーターに連携入力することで,ビル内の人の流れを考慮した最適な運行が可能になる。

図5|FI-700のスマート運転 図5|FI-700のスマート運転 利用者のニーズに応えるさまざまな運転モード「見なし満員通過運転」や「自動登録運転」,「渋滞回避運転」などを提供し,スマートな移動環境を実現する。

FI-700のスマート運転の主な特長は,以下のとおりである。

  1. 見なし満員通過運転
    昼食時などエレベーターがなかなか来ず,来たと思ったら満員状態で乗れないといった利用者の不満に応える運転モードである。満員に近いエレベーターは通過させて地上階に直行し,空いたエレベーターをサービスすることで待ち時間を短縮する。
  2. 自動登録運転
    出勤時間帯の出発階にて,自動で乗り場ボタンを登録する運転モードである。FI-700は,ビルの出勤状態をAI技術で学習し,そのビルに合わせた運行を提供する。そして乗り場カメラ画像の解析結果と連動することで,実際の待ち人数に合わせたサービスをすることができるようになり,さらに待ち時間を低減できる。
  3. 渋滞回避運転
    出勤時にエレベーター待ちの人が行列になっていて,少しも進まずイライラするといった利用者の不満に応える運転モードである。最大輸送人数よりも過大な交通需要を検知した際に,等間隔でエレベーターをサービスし,行列が一定間隔で進むようにしてストレスを低減する。
  4. 戸閉時呼び登録
    乗り場の呼びボタンを押して閉まりかけていたエレベーターの扉が開いて気まずいといった利用者の不満に応える。扉が閉まりかけたエレベーターではなく,別のエレベーターをサービスすることで,気まずさを解消する。
  5. 乗り場ボタン近接エレベーター優先サービス
    乗り場の呼びボタンを押したら一番遠いエレベーターが到着したといった利用者の不満に応える。閑散時には呼びボタンに近いかごを優先的にサービスすることで移動距離を短くする。

3.3 FI-700の拡張性

図6|FI-700の拡張性 図6|FI-700の拡張性 外部からの情報を受けたり,エレベーターの運行情報を発信したりすることが可能なインタフェースを兼ね備えている。

FI-700は,外部からの情報を受けたり,エレベーターの運行情報を発信したりすることが可能なインタフェースを兼ね備えている。例えば,かご内や乗り場の監視カメラで利用者を検出・解析し,人数情報をFI-700に入力することで,タイムリーにエレベーターをサービスすることができる。また,エレベーターの運行情報を発信することで,待ち時間や,どのかごが先に到着するかなどをサイネージに表示することができる。このようにFI-700は,フレキシブルで拡張性のあるシステムとなっている(図6参照)。

乗り場の監視カメラで利用者を検出・解析し,人数情報をFI-700に入力した場合の応用運転の一例を図7に示す。「時間的等間隔」運転をめざすのが運行管理の基本であるが,多くの乗客が待つ状況下においては,フォーメーションを一時的に崩して複数台のかごをサービスすることで対応し,その後速やかに等間隔運転に戻すなどの応用運転を行う。

図7|乗り場の監視カメラとデータ連携した応用運転の例 図7|乗り場の監視カメラとデータ連携した応用運転の例 「時間的等間隔」運転をめざすのが運行管理の基本だが,多くの乗客が待つ状況に対しフォーメーションを一時的に崩して複数台のかごをサービスする。

3.4 協創で生み出すビル内移動ソリューション

日立では顧客と課題を共有し,共に新しいビジネスを創造していく協創を進めている。FI-700は拡張性のあるインタフェースを設けたことによって,顧客のビル設備との柔軟な連動が可能となり,協創を通じて利用者ニーズに応えることでサービスの向上をめざす。例えば,かご内や乗り場の監視カメラとの連携では人流予測の精度を高めることができ,さらにセキュリティゲート,サイネージ,空調,照明システムと連携することでビル全体の新しい移動ソリューションを提供することが期待される(図8参照)。

図8|協創で生み出すビル内移動ソリューション 図8|協創で生み出すビル内移動ソリューション 拡張性のあるインタフェースを設けたことによって,顧客のビル設備との柔軟な連動が可能となり,利用者ニーズに協創で応えることでサービスの向上をめざす。

4. おわりに

本稿では,ビル内における「一人ひとりの無意識の行動に寄り添った快適な移動環境の提供」を実現するために,従来のエレベーターかごを効率的にサービスする「かご」志向から,ビル内の円滑な人の流れを考える「人の流れ」志向へと発想を転換した,人流予測型エレベーター運行管理システム「FI-700」を紹介した。

本システムは,AI技術の活用により,過去の膨大な運行データからエレベーターの利用人数(人流)を予測することで,昼食時など混雑時の平均待ち時間を従来比で最大20%低減することができる。今後は顧客との協創を通じて,監視カメラなどのビル設備とのデータ連携を活用し,ビル内移動のイノベーション創出をめざす。

参考文献など

1)
甲川友佳子,外:昇降機製品・サービスの基本コンセプトとコンセプトモデルHF-1,日立評論,98,12,694〜697(2016.12)
2)
星野孝道,外:ビル内の円滑な移動をサポートする行き先階予約システム―群管理エレベーターFIBEE―,日立評論,98,12,698〜701(2016.12)
3)
星野孝道,外:人流解析技術を用いたビル内移動の最適化シミュレーション,日立評論,100,2,194〜199(2018.3)
4)
下出直樹,外:エレベーター運行履歴を用いた機械学習による階別交通需要予測,システム研究会(FAN2018)第28回インテリジェント・システム・シンポジウム,ST-18-054(2018.9)
Adobe Readerのダウンロード
PDF形式のファイルをご覧になるには、Adobe Systems Incorporated (アドビシステムズ社)のAdobe® Reader®が必要です。