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ハイライト

日立は,街に住む生活者が安全・安心・快適に,そして健康的に暮らすことができる,つまり生活者のQoLを向上するデジタルスマートシティの構築をめざしている。

従前のスマートシティの省エネルギー化や効率化に加え,生活者を中心に据えた街の価値を高めるサービスを協創するためには,デジタル技術の活用が不可欠である。生活者のデータやインフラのIoTデータなど街中から集まるデータを分析し,さらに長期的にアップデートし続けることで継続的に街の魅力・価値を向上させていく。

現在,日立ではこれらを可能にするプラットフォームとしてIaaSを提供しており,このIaaSの基盤上で人々の思いや多様な価値観に応えるさまざまなデジタルサービスの開発を進めている。

目次

執筆者紹介

中野 洋樹Nakano Hiroki

中野 洋樹(Nakano Hiroki)

  • 日立製作所 ライフ事業統括本部 デジタルフロント事業部 デジタルスマートシティ本部 所属
  • 現在,デジタルスマートシティ分野の事業開発に従事

大窪 浩嗣Okubo Hirotsugu

大窪 浩嗣(Okubo Hirotsugu)

  • 日立製作所 ライフ事業統括本部 デジタルフロント事業部 デジタルスマートシティ本部 プロジェクト企画部 所属
  • 現在,デジタルスマートシティ分野の事業開発に従事

木戸 美智子Kido Michiko

()

  • 日立製作所 社会ビジネスユニット 公共システム事業部 全国公共システム第一本部 自治体ソリューション推進部 所属
  • 現在,公共分野におけるスマートシティ事業の拡販推進に従事

壺山 晃Tsuboyama Akira

()

  • 日立製作所 ライフ事業統括本部 デジタルフロント事業部 デジタルスマートシティ本部 プロジェクト企画部 所属
  • 現在,デジタルスマートシティ分野の事業開発に従事

1. はじめに

日立は,それぞれの都市が抱える課題に向き合い,新たな価値を創出する社会イノベーション事業でグローバルな実績を積み上げてきた。

現在,Society 5.0で論じられているように,IoT(Internet of Things)でさまざまな情報を共有・集約したうえで,人工知能(AI:Artificial Intelligence)などを活用し,今までにない新たな価値を生み出すことで経済発展と社会課題の解決を両立する,人間中心の社会が求められている1)。さらに昨今の新型コロナウイルスの感染拡大という状況を踏まえ,レジリエントな社会の必要性が高まっている。

本稿では,日立がめざす生活者のQoL(Quality of Life)を向上するためのデジタルスマートシティの実現に必要な,デジタル技術を活用したサービス,インフラについて述べる。

2. 生活者のQoLを高めるデジタルサービス

図1|日立の考えるレジリエントなデジタルスマートシティ 図1|日立の考えるレジリエントなデジタルスマートシティ デジタル技術を活用して,安定した暮らしと経済が持続する,リアルとサイバーが連動した人間中心の社会を実現する。

日立は,プロダクトや社会インフラを中心としたIT,OT(Operational Technology)など,社会イノベーション事業を通じて得た人や物に関するデータ,多業種のノウハウをLumada2)に集約し,オープンイノベーションを可能にするプラットフォームとしてIaaS(Infrastructure as a Service)を提供している。

そして,このIaaS基盤上で,人々の思いや多様な価値観に応えるさまざまなデジタルサービスをステークホルダーと協創し,生活者の価値観に合わせて都市機能を変化させる。そして,「健康で生き生き暮らせる街」,「いつもにぎわいのある街」,「豊かに楽しく働ける街」や「感動を思いっきり味わえる街」といった魅力のあるスマートシティを実現する(図1参照)。QoLを高めて人生を豊かなものにするデジタルサービスは,スマートシティの不動産価値も向上させ,持続的な発展の支えとなる。

ここでは,IaaS,そしてスマートシティを構成する重要なシーンとして,シニアがアクティブに生活するためのサポート,多くの人が行き交うショッピングモール,感染症の影響で劇的に変化をしているワークシーンについて,それぞれデジタルサービスの例を述べる。

2.1 IaaS

近年,街のインフラ維持管理の複雑化,設備維持に関わる人員不足といった課題が顕在化しており,複数拠点を包括的に管理するエリアマネジメントの実現が急務となっている。

日立は,国内外で培ったITとOT(エレベーターやエスカレーター,防犯カメラや空調設備など)のノウハウをIaaSとして提供する。IaaSにより新しい設備やアプリケーションの追加・更新が可能となり,ソフトウェアで街をアップデートし,魅力・価値を継続的に高めることができる。

IaaSを用いることで街のエネルギー情報や設備稼働状況などの見える化,AIによる最適化,ダウンタイムの最小化による業務効率の向上や省エネルギー化などに加え,他のデータを統合すれば新たな価値を創造することが可能になる。例えば,働く人の活動データを用いれば,オフィスの空調を個人向けに最適制御することができる。また,経済性を確保したうえで環境に配慮しつつ,生活者が快適に暮らし,労働する環境を提供できる。このように,IaaSは魅力的な街を実現するためのデジタルサービスの基盤となる。

2.2 フレイル予防による健康寿命の延伸(Elderly Care)

日本の高齢化は急速に進展し,将来推計人口によると2060年時点で65歳以上の高齢者が40%近くとなる見込みである3)。また,中国をはじめとしたアジアや欧米の国々でも高齢化は同様に進んでおり,特にアジアでは日本を上回るスピードで急速に進行していくと予想されている。

高齢化とそれに伴う相対的な生産年齢人口の減少で,経済規模の縮小や社会保障費の増大といったさまざまな問題が発生する中,日本は課題先進国として世界各国から注目されている4)

日立は,健康寿命の延伸につながる,元気な高齢者の多い活力ある街づくりに貢献し,同時に高齢化に起因する社会課題の解決をめざして,フレイル対策に着目した研究やサービス創出に取り組んでいる。例えば,コネクテッド家電の利用データなどを活用してフレイルの予兆を検知する技術の開発5),エビデンスベースでオーダーメイドのフレイル予防を支えるAIの研究を進めている6)

生活者のデータと街のデータをつなげて,いかなる環境でも高齢者が長く健康に暮らせる街を実現する。

2.3 安全・安心で新しいショッピング体験(Retail)

EC(Electronic Commerce)の普及に伴い,消費者の商品認知や購買手段の多様化が進み,店舗経営においては顧客との接点の維持・拡大など実店舗の役割の見直しが検討されてきた。この傾向は新型コロナウイルスの感染拡大により,一層強く求められ,レジリエントなビジネスに向けオンライン・オフライン業態の再構築が急務となっている。この場合のオフラインたる実店舗の意義は,来訪者に対して実店舗でしかできない体験を提供することである。例えば,家族や仲間と集まって楽しく買い物ができるという体験を挙げる場合,まず取り組むべきは安全な環境の実現である。施設内のセンサーと地理情報システムを組み合わせることで,来訪者に安全・安心のための情報や選択肢を提供することができる。

また日立は,そのような場を提供する事業者へ,センサーと什器をパッケージしたポップアップ空間を迅速に提供し,コンテンツの新陳代謝を促進することでフレッシュな商空間の維持を支援する。

これらと訪問者のニーズを深掘りしたコンテンツ企画支援なども併せ,実店舗とECの融合による新たな顧客体験を創出することで,ショッパーやモール,テナントを支援し,安全・安心で新しいショッピング体験を通じて,にぎわいのある街の実現をめざす。

2.4 ハイブリッドワークによる快適な労働環境(Work Place / Work Style)

働き方が大きく変わる新常態に向けて,これまでに存在し今後も維持すべき価値と,新型コロナウイルスを含む種々の脅威と共存していくための新しい働き方を高い次元で両立し,安全・安心に業務を行う中でも生産性を維持・向上する必要がある。

新型コロナウイルスの感染拡大を受け,業種や業務の進め方により対応の差異はあるものの,各企業の組織や個人がおのおのの業務に応じて,ふさわしい場所で勤務する働き方が定着していく傾向が見られる。一方,コミュニケーションにおいては,これまで自然に存在していた雑談や気軽な相談がしにくくなり,結果として組織全体の革新性や生産性に影響する事態などが起きうる。

日立は,リモートとオフィスのハイブリッドワークを,適切な組織内コミュニケーションと併せて確立し,仕事とプライベートとの融合や,従来型の手続きの新常態への適応など,新常態下で働く人々の新たな課題をデジタル技術で解決する。

このため,不動産デベロッパーやシェアオフィス事業者などのステークホルダーとの協創を加速し,ウイルスや災害に対しての対応弾力性が高いレジリエントな業務環境の提供に向けた活動を推進している。これにより,安全・安心とコミュニケーションを含めた快適な労働環境を確保しつつ,生産性の維持・向上を実現する。

3. 公共インフラとしてのデジタルスマートシティ

公共インフラとしてのデジタルスマートシティには,生活者のQoL向上に向けて,前述の分野や医療・介護,交通,教育,観光など地域生活の基盤となる領域に加え,都市マネジメントとして防犯・防災,社会インフラ保守など地域環境を中心に,人や地域・環境データの活用による最適化されたサービスが必要となる。

日立は,デジタルスマートシティの実現に向けて,各都市の持つ多様なデータを集約・分析・活用することにより,生活者のQoL向上に向けたサービスや,その生活を支える都市マネジメントを行うためのサービスを提供する。

人生100年時代を迎える中,昨今進んでいる少子高齢化・人口減少,増大する社会保障費負担の問題など,日本は世界に先駆けて深刻な社会課題に直面している。これに対して各省庁や全国の自治体では,スマートシティをSociety 5.0の出口の一つとして取り組んでおり,課題先進国である日本における取り組みは,将来グローバルでの課題解決の礎となる。

なお,このデータの活用においては内閣府が主導する「都市OS(Operating System)」が重要となる。都市OSにより,行政機関や民間事業者が持つデータの異分野・異業種間でのシステム間連携やデータ流通など相互運用性が向上し,多分野にまたがるさまざまなデータから社会課題を解決する新たなサービスの創出や展開が期待できるからである。日立は,戦略的イノベーション創出プログラムのスマートシティアーキテクチャの検討に参画し,これに取り組んでいる。

また,人に関わるデータ活用においては,個人情報の管理や本人同意による開示・交換などの仕組みが必要となる。ここでも住民情報を管理する公共機関が果たすべき役割は大きいと考えられ,日立は公共機関が持つデータの安全な連携やマイナンバーを介した連携などの提供を検討している。

日立が描く公共インフラとしてのデジタルスマートシティでは,適切な個人情報の取り扱い・活用を可能とする都市マネジメントと都市OSの両輪で整備され,そこで暮らす人々が安全・安心・快適で健康的に暮らし続けられる,人間中心の持続可能な社会を実現することをめざしている。日立はその実現に向けて,自治体や行政,民間事業者や学術機関など,都市のステークホルダーとの協創で形づくるスマートシティの実証,社会実装を推進していく。

4. 協創による推進

複雑化した社会問題やステークホルダーの課題の解決に貢献するため,日立はさまざまなステークホルダーと課題を共有し,共に新しいビジネスを創造していく「協創」を進めている。ここでは,デジタルスマートシティ分野の協創について述べる。

4.1 不動産会社との協創

日立アジア社とFrasers Property Limited(以下,「フレイザーズ・プロパティ」と記す。)は,多世代にわたって不動産の価値を高めるための技術や,人々のハピネス向上や優れた顧客体験を提供するIaaSの可能性について調査している。両社は,それぞれの強みやリソースを持ち寄り,フレイザーズ・プロパティが有する不動産が将来にわたり持続的に価値を維持・向上させていくための協創を進めている。

4.2 自治体との協創

NSW(New South Wales:ニュー・サウス・ウェールズ)州およびオーストラリア連邦政府は,西シドニー国際空港,西シドニーエアロトロポリス,また,人口が現在の約90万人から,今後20年間で150万人を超えると見込まれている都市圏「ウエスタンパークランドシティ」での雇用,社会インフラ,交通網などの整備を推進している。

日立とNSW州はオープンな協創拠点である「協創センタ」で,ウエスタンパークランドシティの社会価値,環境価値,経済価値の向上をめざして,スタートアップや中小企業の成長を支援し,地域の経済発展と雇用創出への貢献を目的に活動している。

5. おわりに

本稿では,人間中心のデジタルスマートシティの実現に必要なデジタル技術を活用したサービス,インフラについて述べた。生活者のQoLの向上のためには高信頼性はもちろんのこと,経済性,環境への配慮も必要とされる。

日立は,さまざまな分野のステークホルダーとの協創により,社会課題を解決し,安全・安心・快適,そして健康的な暮らしと経済発展が持続的に両立する,人間中心のデジタルスマートシティの実現をめざして事業開発を進めていく。

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