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COVER STORY:ISSUES

「幸せ」を起点とした組織・社会の変革をめざして

20世紀型成長シナリオへのオルタナティブを

ハイライト

高齢化と人口減少,グローバル化の進行などによる社会・経済構造の変化を受け,企業組織のあり方や働く環境を見つめ直す動きが広がっている。加えて,新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によりニューノーマルを前提とした生活のあり方も模索される中,新たな価値の軸としてQoLがクローズアップされている。

新しい未来を創るための意識改革を訴えてきた安宅和人氏は,最新著『シン・ニホン』で,自然と共に豊かで人間らしい暮らしを営む場所としての「風の谷を創る」プロジェクトについて語り,注目を集めている。個人と組織の「ハピネス」に着目したビジネスを立ち上げた日立製作所フェローの矢野和男と,それぞれの新しい取り組みについて語り合い,一人ひとりが自分らしく幸福に生きることができる社会を実現するために今,何をすべきかを考える。

目次

幸福度による組織マネジメントを事業化

矢野ご無沙汰しております。2月に上梓された『シン・ニホン』がベストセラーとなり,反響も大きいのではないですか。

安宅ありがとうございます。あの本は,より良い未来を創るためにすべての日本人に意識を変えてほしいという思いで書いたものなので,できるだけ多くの方に読んでいただきたいと願っています。矢野さんは,「ハピネスプラネット」という新会社を設立されたそうですね。日立の中につくられたのでしょうか。

矢野日立がマジョリティの会社ではありますが,他社の資本も入っていて完全に中というわけでもない,いわば「出島」のような位置づけの会社です。ベンチャーの俊敏性を備えた組織で日立本体の資源を生かすことによって,協創による新ビジネスの創造を加速するのがねらいです。

安宅なるほど。新会社ではどのようなビジネスを展開されるのですか。

矢野大きく言うと,幸せな組織や社会の実現を支援する事業です。具体的には,スマートフォンアプリの「Happiness Planet」をベースに,働く人の幸福度や組織の活性度を定量化して,従業員の働きがいと前向きな挑戦を引き出すマネジメントを支援するサービス事業を展開していきます。

従来の組織マネジメントは,人間を機械の部品のように扱い,「この入力に対してこう出力しなさい」というようなあり方を求めるものでした。でも,人間には心がありますよね。人と人とのつながりがあって共感,信頼,感謝,利他などの気持ちが生まれ,幸せで生産的になれるのだと思います。そうしたことをデータに基づいて支援する仕組みによって,企業や社会を変えていくことが目標です。その前提となっているのが客観的な幸福度の評価を可能にした技術です。

安宅これまで矢野さんが研究されてきた,行動モニタリングで幸福度を測る技術ですね。

矢野はい。以前にもお話ししましたが,われわれは15年ほど前から人の行動,体の動き,組織内でのコミュニケーションなどのデータと業務や経営に関するデータを併せて解析し,人と人のつながりやコミュニケーションのあり方から,幸せで生産的な組織とそうでない組織の違いを把握する研究を行ってきました。実は,その時よりも解析が進んでいて,幸福度の高い組織には4点の明確で普遍的な特徴があることが分かってきたのです。

まちづくりや医療への応用にも期待

安宅 和人安宅 和人
慶應義塾大学 環境情報学部 教授
ヤフー株式会社 CSO
東京大学大学院生物化学専攻にて修士課程修了後,マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。4年半の勤務後,イェール大学脳神経化学プログラムに入学。2001年春,学位取得(Ph.D.)。ポスドクを経て2001年末,マッキンゼー復帰に伴い帰国。マーケティング研究グループのアジア太平洋地域における中心メンバーとして,幅広い分野におけるブランド立て直し,商品・事業開発に関わる。2008年9月ヤフーへ移り,COO室長,事業戦略統括本部長を経て2012年7月よりCSO。事業戦略課題の解決,大型提携案件の推進に加え,市場インサイト部門,ヤフービッグデータレポート,データ活用を含む全社戦略などを担当。2016年春より慶應義塾大学SFCで教鞭を執り,2018年9月より現職(現兼務)。内閣府総合科学技術イノベーション会議(CSTI)基本計画専門調査会委員など公職多数。著書に『イシューからはじめよ―知的生産の「シンプルな本質」』(英治出版),『シン・ニホン』(NewsPicks)ほか。

矢野1点目は,組織の人と人のつながりがフラットで網目状になっていること。2点目は,比較的短い会話が頻繁に行われていること。3点目は,会議の際に参加者が平等に発言していること。つまり,同僚や上司に対して意見や不安を自由に発言できるような関係にあると,心理的な安全性が保たれて幸せを感じられるということです。

そして4点目が,組織のメンバーの間で体の動きの同調性が高いこと。私たち人間は,相手に対する拒絶や不信感,共感や信頼を表現するときに,あまり言葉では言いませんよね。無意識に体の動きを合わせたり,ずらしたりすることで表しています。そのような非言語のコミュニケーションは,言葉を覚える前の赤ちゃんも行っている本能的なものです。この同調性を加速度センサーで計測して「ハピネス関係度」として数値化します。ハピネス関係度が高い組織は生産性も高いことが実証されていますから,これによって客観的かつリアルタイムに組織の生産性が評価できるわけです。

スポーツでもそうですが,客観的な計測ができるからこそ,記録を向上し,進歩することが可能になります。組織の生産性に関しては,これまでなかなか客観的な評価に使える指標がありませんでしたが,ハピネス関係度を用いることで,生産性を上げるにはどういう施策が有効なのか検証できるようになりました。人間の「心」や「幸せ」といった観点から考える,21世紀型の組織マネジメントが可能になるのです。

安宅そのアプリは企業の組織以外にも応用できそうですね。

矢野はい。例えば,スマートシティならぬ「ハピネスシティ」として,幸福度から考えるまちづくりに応用できる可能性もあります。最近は幸福度と免疫力の関係について研究した論文などもあり,「医療×ハピネス」も発展が期待できるテーマです。そのほかにもさまざまなパートナーとの協創を考えています。

組織には静脈系も必要である

矢野 和男矢野 和男
日立製作所 フェロー
株式会社ハピネスプラネット CEO
1984年に早稲田大学 物理修士卒業後,日立製作所に入社,同社 中央研究所に配属。2018年より現職。現在,AIや社会におけるデータ活用の研究に従事。1993年単一電子メモリの室温動作に世界で初めて成功。 2004年からウエアラブル技術とビッグデータの収集・活用技術で世界を牽引。論文被引用件数は2,500件,特許出願350件を超える。著書『データの見えざる手〜ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』(草思社刊)はBookVinegar社の2014年ビジネス書ベスト10に選ばれる。2020年にデータに基づき地球規模で幸せを高めるため,株式会社ハピネスプラネットを創業し,代表取締役CEOに就任。博士(工学)。IEEE Fellow。現在は東京工業大学特定教授を兼任。IEEE SpectrumのExternal Advisory Board Memberや文部科学省情報科学技術委員を歴任。1994 IEEE Electron Devices Society Paul Rappaport Award, 1996 IEEE ISSCC Lewis Winner Award, 1998 IEEE ISSCC Jack Raper Award, 2020 IEEE Frederik Phillips Award などの国際的賞を多数受賞。

安宅いやあ,面白い。これはぜひ広めるべきだと思います。幸せで生産的な組織に共通する4点の特徴というのは,組織がフラットで双方向な状態にあるかどうかを示すものですよね。いわゆるシリコンバレーのイノベーティブな企業に見られそうです。

矢野確かにそうかもしれません。やはり,歴史のある企業や大企業などは,どうしても階層構造ができてしまいがちなのだと思います。外的な成長要因に恵まれていた20世紀にはそれでもうまく回っていたのかもしれませんが,成功体験に基づく前例やルールが階層の間に蓄積されるにつれ,動きづらくなり,機動力も失われてしまうのでしょう。

安宅悪い意味でのレガシーが増えていくと,アンハッピーな組織になっていくのでしょうね。

矢野そのことに気づいて,廃棄をシステマティックに行わないと身動きが取れなくなっていきます。やはり組織のいろいろな流れというのは一方向だけではだめで,静脈系が必要なのです。

安宅それはすごく重要なカギだと思います。

矢野流れを一方向にしないためには,リーダーに権限を与えて動き回れるようにすることです。大企業における「出島」というのは,イノベーションを促進する異質な組織のあり方として経団連が提唱しているものですが,階層化に対する突破口を開くモデルの一つになるのではないかと考えています。

自然と共に豊かに生きる「風の谷を創る」

矢野幸せやQoL(Quality of Life)などの言葉はよく知られています。しかし,その本当の姿は明確ではありません。これは,幸せも,静的な状態ではなく,人と人との関係性の中で,動的に生み出されるものだからです。人との共感や利他を通して,社会は常に新たに再生されています。常に新陳代謝する生命体と同じです。その意味で,幸せは状態ではなく,行為です。

日立は,2021中期経営計画で「Hitachi Social Innovation is POWERING GOOD 世界を輝かせよう。」というスローガンを掲げています。POWERINGという動名詞で,世界のよきこと(=Good)に,お客様との協創を通じて常に動的に取り組みつづけるという日立の企業姿勢を表しています。QoLやウェルビーイングなどへの関心が高まっていますが,この傾向は今後ますます大きな流れになっていくと思います。

われわれのハピネスプラネットの事業も然り,安宅さんが提唱されている「風の谷」というのも,まさにウェルビーイングやQoLに着目された構想ですよね。

安宅「風の谷を創る」構想はこれまであまり公にしてこなかったのですが,『シン・ニホン』に書いたことで一気に認知が広まりました。これは,このまま都市集中型の未来しかないのは幸せなのか,という問題意識から生まれました。

矢野そう思ったのにはきっかけがあるのですか。

安宅これはもう偶然で,3年ほど前に社会変革のプロジェクトに関わっているメンバーと,鎌倉の建長寺で開かれた合宿に参加したのです。お寺にこもって心の深くにあるアジェンダを拾い出し,お互いに見つめ合うという集まりだったのですが,そこで瞑想的に考えているときに,突然ある考えが降りてきました。「今の社会はこのままだと都市しか残らなくなってしまう。そんな未来は受け入れられない。AI(Artificial Intelligence)のように省力化を進めるテクノロジーが発展しているのに,人がいないという理由だけで疎な空間が捨てられるのはおかしい。最新のテクノロジーの力を使い倒すことで,自然と共に豊かに生きる未来のオルタナティブがあって然るべきだ。『風の谷』だ」と。

明らかになってきた過疎地の課題

矢野風の谷というのは,宮崎駿監督の映画『風の谷のナウシカ』のそれですね。自然環境に恵まれた田園都市のような,日本の里山のような。

安宅はい,そこからインスパイアされたイメージです。その土地の自然の美しさを感じながら生き生きと,そして文化的にも活性化した状態で生活できるような空間ですね。このことを話したら賛同してくれる方々が想像以上にいて,ならば真剣に考えてみようということになったのです。

ただ,実現に向けて検討を始めてみると,森や自然の多くが残る過疎化の進んだ地域には,大きく分けて二つの深刻な課題があることが分かってきました。一つは住民一人当たりのインフラコスト,道路や上下水道・電気・ガス,医療,消防,ゴミ処理などの社会インフラ維持にかかるコストがあまりにも高いということです。全国の基礎自治体は2019年末で1,741ありますが,そのうち数百の自治体には,一人当たり年間100万円,あるいはそれをはるかに超える公費が投入されています。その原資の大半は都市部からくるもので,それらの空間は都市部が支えきれなくなると存続できなくなるという構造的な問題があるのです。

もう一つは,都市部の利便性や楽しさに対抗しうる求心力がないということです。そのために才能が流出してしまう。それらが二重の負のサイクルを形成して衰退が加速していることが分かってきました。これらは根の深い問題で,すぐには変えられないでしょう。本質的にサステイナブルなものにするには200年以上続く運動論が必要であると見ており,僕たちはその最初の型を立ち上げることをめざして活動を進めています。

「ネイチャーコネクテッドネス」が幸せ度を高める

矢野そこへ新型コロナウイルスのパンデミックが起きたわけですが,影響はありますか。

安宅ええ。ウイルスに対抗するには,簡単に言うと密閉より開放,密よりも疎が推奨されますよね。僕はその二つのトレンドをあわせて「開疎化」と言っていますが,考えてみたら風の谷というのは開疎な空間なんです。最近では感染防止のために密な都会から疎な郊外に移住しようという動きも起きていていますね。これは突然,「風の谷を創る」運動論に風が吹いてきたようなもので,今はいくつかの自治体から問い合わせが来ています。

矢野私は東京の日野市に住んでいるのですが,多摩川と浅川の合流する地点に形成された日野台地と呼ばれる河岸段丘が近くにあります。新型コロナウイルスが広がり始めてから基本的に在宅勤務で,毎日朝夕,犬の散歩を兼ねてその辺りを歩くようになったら,ここがいかに緑豊かで自然に恵まれた土地かということに気づかされました。30年近く住んでいて,これまでは単に駅までちょっと遠い不便なところだとしか感じていなかったのが,見方を変えるとまったく違う価値を持つのですね。おそらく過疎地の村も,視点を変えなければ気づかないような価値を持ったところは多いと思います。

安宅そうですね。今後1年以上はウィズコロナ状況下の社会が続きますから,癒やしにつながるような緑の空間がより求められるでしょう。QoLの向上には自然とのつながりが欠かせないと思います。

矢野「自分は自然の一部である」とか「自然との一体感を感じる」という感覚を「ネイチャーコネクテッドネス」と呼び,そうした感覚を持つことができる人は幸せ度が高いというデータがウェルビーイングの研究でも示されています。ブリティッシュコロンビア大学のHolli-Anne Passmore博士らの研究ですが,周囲に植物などの緑が物量として多いかどうかというよりも,その人が主観的に自然との一体感を感じるかどうかが,幸せに大きく関係しているそうです。

風の谷の実現へ,課題を洗い出す

矢野「風の谷を創る」構想にはいくつかの自治体からコンタクトがあるとのことですが,構想が具体化し始めているのでしょうか。

安宅はい,実際に動き始めています。「風の谷」や「開疎」という言葉を基本方針の中に組み入れている自治体もありますし,東日本大震災の被災地のほか海外からもコンタクトがあり,いくつかの自治体とは一緒に検討を始めています。

今は,さまざまな側面から具体的な課題を洗い出し,解決策を検討しているフェーズです。先ほど言ったインフラコストの課題に加え,今年の春からはさまざまな開疎的な空間のあり方,文化の醸成,開疎な状況で深いチャレンジを受けているいくつかの「業」の再構築について検討しています。

空間についてはさまざまな側面があって,まず現状から疎な空間を再構築すること,そして森と呼ばれている空間の再生が課題です。日本は国土の約7割が森林で数字上は森が豊かですが,問題はその6割強が人工林で,しかもその97%が針葉樹林,7割はスギかヒノキのどちらかしか植えられていない単層林であることです。そうした単層林は水の流れも悪く,実は地盤も脆弱です。それを多様性のある森に戻していくことで,景観だけでなく林業という観点からも価値を生み出せる森へ転換していかなければなりません。また,生活空間と仕事空間の距離感やバランスをどうするべきか,文化や楽しさの創出という意味でも重要なまちはどうあるべきかということも検討しています。

文化の醸成については,完全に疎な状態でそれが可能なのかという問題があります。やはりある程度,密に住んで人と人の出会いとつながりがあるからこそ文化が生まれるのではないかと思うのです。ただ現在は,オンライン会議システムを活用して物理的な開放性と疎を保ちながらコミュニケーションをとることもでき,開疎な状態で文化を生み出せる可能性は高まりつつある。

「業」については,開疎な空間でどう産業を成り立たせるか。特に教育は,人と人のつながりが不可欠なものの筆頭ですから,風の谷でそれが可能なのか,都市に対するオルタナティブとしての谷での教育とは何かをゼロベースで検討しています。

人が成長する,人を醸成する空間

矢野いわゆる村おこしというと,工場を誘致したりハコモノをつくったりして雇用を生み出すことをイメージしがちですが,そうではない形で経済を回していくということですね。

安宅そうです。知恵を出しテクノロジーを使い倒して人口密度が低くてもインフラコストを劇的に下げるとともに,まずは圧倒的に魅力のある空間をつくり,ほかでは手に入らない価値を訪れる人に提供することが大切だと考えています。先ほど言った森の再構築も含め,今は経済的に成り立っていない空間に経済合理性を持たせるための戦いが,「風の谷を創る」ということだと思っています。

矢野その土地で大切に受け継がれてきた文化,豊かな自然環境,食などを体験することの魅力を生かした観光産業や林業などで,経済が回る規模の谷をつくると。

安宅そういうことです。

矢野疎だけれども人とのつながりがあって,自然や歴史ともつながり,心豊かになる経験を通じて人の成長や学習,気づきを得る。風の谷というのは,そうしたことに投資し,利益を得る場なのかもしれないですね。

安宅人を醸成する空間と言ってもいいかもしれません。

矢野空間をどのように再構築するかは土地の条件にも左右されると思いますし,場合によっては長い時間のかかる壮大な構想だと思います。安宅さん,体がいくつあっても足りないのでは(笑)。

安宅そうですね。天然林が残っているところはいいのですが,森の再生から始めるとなると最低でも50年はかかる計画になります。でも,それこそやらなければならないことで,当然ながらすべてのプロジェクトに僕がずっと関わっていくことはできませんから,それぞれの谷に真剣にコミットする人が中心になって進める形になるでしょう。ただ,最初に自律的な発展のさせ方が確立できれば,あとはN倍化的に拡大することも可能だと思っています。

QoL向上へ強い意志を持って行動すべき

矢野風の谷に対して都市の未来はどうあるべきとお考えですか。

安宅まず,都市と谷的な空間はついで考えるべきものだと考えています。谷的な空間を知覚に持てる都市とそうでない都市は価値が大きく変わってしまう。谷的な空間を持つためにも都市は必要になる。そのうえで都市にはもっと土と緑を増やすことが必要だと考えています。Pandemic-readyでないからです。東京の都心にはもうあまり余地がないですが,地方都市の駅前のあまり使われていない駐車場などは,緑に変えることで生活の質が高まるはずです。シンガポールのビシャン・パークという河川公園は,コンクリートの護岸で固められていた都市河川を,緑あふれる素晴らしい空間に生まれ変わらせたものです。これからの都市の価値は,そうしたことができるかどうかが評価されると思います。

それともう一つ,風の谷にも言えることですが,未来の暮らしを考えるときに避けて通れないのが気候変動への対応です。環境省の予想では,産業革命以前からの気温上昇を1.5℃に抑える目標を達成できなかった場合,2100年には風速90m/s級の台風が日本列島に来る可能性があるそうです。これはほとんどの家屋が倒壊するようなレベルです。仮に達成できても風速70m/s級と予想されていて,そうしたシナリオを見据えると,これからの建物は少なくとも風速70m/sに備えた設計でなければならない。それはどんな建物なのか分かりませんが,今から考え始めないとわれわれの子孫が大変な目に遭うことになってしまいます。

矢野このままだとそういう未来がくる。想像するとあまりハッピーではないですね。

安宅従来の延長線上によい未来があると思える時代は終わったということです。人類は,地球全体を合わせて未来のQoLを上げなければならないという強い意志を持って行動すべきときにあると僕は思います。先祖伝来の自然や土地の記憶を生かしながら,避けられない環境の変化に対応していく知恵が必要です。未来へ残すに値する価値をどうつくっていくのかが,今のわれわれに問われています。

矢野人と人とのつながり,自然とのつながりの中で幸せに生きる未来をつくるには,一人ひとりがもっと機動的に動かなければいけないですね。

安宅そう思います。「豊かで人間らしく生きる」ことをめざすという点で,矢野さんのハピネスプラネットと僕の風の谷は本質的に近しい魂を持っています。合流できる部分も多くあると思いますし,一緒に未来を創っていけることを願っています。

矢野ハピネスプラネットのサービス自体も,今後まだまだ進化させる計画です。より多くの人々のQoL向上に貢献するために,ぜひ協創できれば幸いです。本日はありがとうございました。

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