8. データを活用した保守事業
予防保全故障診断は,日立のLumadaソリューションの基本アプリケーションである。OS&M(Operation Service and Maintenance:運用・サービス・保守)部門では,鉄道車両部門および信号保安部門と連携し,メンテナンスに関する明確なデジタルアプローチを構築してきた。日立レール社のすべての事業分野で行われているこうした部門間の連携は,日常業務を最適化するだけでなく,今後,製品を設計・製造する際の情報源となり,品質の向上とコストの改善につながる。つまり,このプロセスを利用すれば,顧客との連携で利用状況データを最適化し,障害の原因究明が可能になる。これにより,繰り返し起こる故障の再発を防止して信頼性が向上することで,ライフサイクルコストが軽減される。
このようなプロセスを導入するには,OS&M部門が持つデータサイエンスのシステムドメインの強みと,ITおよびその知見を融合することが必要であった。今では,OS&M部門の各チームのエンジニアとスタッフが同じ設計チームに常駐するようになり,メンテナンス性や予測可能性の観点からプロジェクトの改善要求を挙げられるようになった。このような経験で得た教訓を継続的に生かせるプロセスは,「メンテナンスを考慮した設計」を強力に後押しする。
こうしたアプローチの好例として,2019年に始まったTiresiaプロジェクト「インテリジェント資産管理システム(IAMS:Intelligent Asset Management System)」がある。Tiresiaはイタリアで,より広範な動的メンテナンス管理プログラムの一環として正式に顧客に導入された。IAMSは,大規模なデータを管理するために設計・開発された,日立レール社のデジタルプラットフォームである。
OS&M部門では,このテクノロジーとプロセスを用いてETR500,ETR1000,ETR700列車の車載信号システムから送られるデータを活用し,イタリアの高速鉄道設備の予防保全を行っている。データ処理エンジンにより,1日当たり100車両以上,800路線以上からデータを分析し,各データ集合に対して70を超えるルールに基づいて計算を行う。Tiresiaは,製造およびメンテナンス分野全体で最新のIAMSソリューションの一つであり,日立レール社のオペレータや保守技術者に一元的なユーザーインタフェースを提供し,リモートでのモニタリングと制御を実現している。OS&M部門では顧客と緊密に連携して,IAMSのアプリケーションの拡充と,イタリアおよびその他の地域のさらに多くの旅客列車(約2,000のシステム)へのデジタルメンテナンスの普及に取り組んでいる。
[8]能力曲線とOS&M事業の変化および発展