日立評論

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日立評論

2021年11月に英国グラスゴーで開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)において,日立は日本企業として初めてプリンシパル・パートナーに就任した。気候変動という人類共通の課題に対し,より持続可能な未来を実現するため,イノベーションの力で社会の脱炭素化に貢献していく。脱炭素社会の実現に向けては,社会全体の「電化・電動化」,「再生可能エネルギーの大量導入」,製品ライフサイクル全体での「省エネルギー」,「資源リサイクルの推進」の四つの取り組みが必要となる。

日立は,それぞれの取り組みに対して,電気自動車(EV)の充電や駆動を革新するパワエレシステムや,分散型グリッドにおいて電力を安定供給するためのエネルギーマネジメント,デジタル技術を活用したモビリティの省エネルギー制御,プラスチックやバッテリーのリサイクルを加速させるプロセス最適化や状態診断などの研究開発に取り組んでいる。

1. EVの普及を加速する省スペース大容量マルチポート充電技術

[01]開発した350 kWマルチポートEV充電システムの外観[01]開発した350 kWマルチポートEV充電システムの外観

EV(Electric Vehicle:電気自動車)の充電設備の小型・軽量化とともに,充電容量とポート数をフレキシブルに変更できる技術を開発し,350 kWマルチポートEV充電システムを試作した。

大きな体積を占める変圧器を小型化するため,SiC(Silicon Carbide)パワー半導体を用いて変圧器の駆動周波数を50 kHzに高めるSST(Solid State Transformer:半導体変圧器)を開発した。これにより,設置面積を約40%,重量を約70%それぞれ削減し,業界No.1の小型・軽量化(2021年10月現在,日立製作所調べ)を実現した。

また,SSTを内蔵した電力変換ユニットを7台直列に接続して6.6 kVの入力電圧を分担して受電するマルチレベル回路を開発した。これを3並列,合計21台の電力変換ユニット構成とし,切替スイッチで出力を制御することで,ユーザーニーズに応じて充電電力とポート数をフレキシブルに変更できる。例えば50 kWの急速充電であれば7台のEVを同時に充電できるほか,切替スイッチにより350 kWの超急速充電も可能であり,今後普及が進む大容量バッテリー搭載EVも短時間で充電することができる。

2. 脱炭素社会実現に貢献するSiCパワーデバイスTED-MOSの設計技術

脱炭素社会実現へ向けて開発し,進化を進めてきた日立独自の炭化ケイ素(SiC)パワーデバイス「TED-MOS」において,その構造的特長を生かしたデバイス設計技術を構築した。

SiCパワーデバイスは,従来のシリコンに比べて省エネルギー効果が期待できる一方,信頼性の指標である短絡耐量に課題があり,消費電力低減と信頼性向上のトレードオフの改善が求められていた。今回,短絡耐量に関する各デバイスパラメータの影響を詳細に解析し,短絡による破壊機構をモデル化することで,耐性を向上する設計指針を見いだした。さらに,TED-MOSの構造的な特徴であるトレンチの寸法最適化によりトレードオフを打破できることを,デバイス試作により実証した。

今後は本技術を用いて,顧客の幅広い用途に適合したパワーデバイスを提供し,社会インフラ製品の電力消費量低減,二酸化炭素排出量の削減により脱炭素社会の実現に貢献していく。

[02]TED-MOSの構造および短絡時の物理モデル[02]TED-MOSの構造および短絡時の物理モデル

3. インホイール式EV駆動システム「Direct Electrified Wheel」

[03]ダイレクト駆動システム「Direct Electrified Wheel」[03]ダイレクト駆動システム「Direct Electrified Wheel」

脱炭素社会の実現に向けて普及が進むEVには,さらなる乗り心地と航続距離向上のために,車内空間やバッテリースペースの拡大が求められている。これを解決する方法として,モータをホイール内部へ搭載するインホイール式EVが知られているが,ホイール内の重量増加や既存ブレーキなどを大幅に改造する必要があることが課題であった。

そこで日立は,これまで培った鉄道,エレベーターなどの技術も生かし,モータとインバータ,ブレーキを一体化した小型・軽量のダイレクト駆動※1)システム「Direct Electrified Wheel」を開発した。

モータは,磁石をハルバッハ配列※2)にすることで磁極ごとの有効磁束を増加させて駆動力を高め,扁平なコイルを高密度に配列して軽量化した。インバータは,モータに一体化するとともに絶縁性の冷却油でパワー半導体を直接冷却する技術により,配管スペースを削減した。これらの技術により,本開発の駆動システムは,世界トップクラスのパワー密度を実現してホイール内を大幅に軽量化するとともに,サスペンション構造を大きく変更することなくホイール内部に搭載することを可能とした。

今後は,本開発のダイレクト駆動システムやこれまで培った車両制御技術を基に,EV向け製品をより幅広いラインアップでグローバルに展開することをめざしていく。

※1)
モータの駆動力をダイレクトに車輪に伝達する駆動方式。
※2)
磁石のN極の向きを90°ずつ回転させて配置することで,モータの各磁極で高密度の磁束を発生する構造。

4. 協創の森:分散グリッド向けエネルギーマネジメントシステムの顧客協創環境

東京・国分寺の研究開発拠点「協創の森」に,街区・工場・ビル・データセンターなどのエネルギー消費設備を有する多様な業界を想定したエネルギーマネジメントシステムの実証環境を構築した。

本環境の3点の特長を以下に記す。いずれも研究開発グループで開発したものである。

  1. 半導体技術を活用した,高精度かつ短時間に故障・寿命を予測可能な発電設備制御技術
  2. エネルギー需給の高精度マッチングと電力量インバランスを解消する制御アルゴリズム
  3. AI(Artificial Intelligence)を活用したエネルギー・環境価値取引システム

実際の設備やシステムを自由に組み合わせることで,再生可能エネルギーの安定的・効率的・経済的な運用やゼロエミッション化をめざす顧客に実証実験の場を提供することが可能となる。

今後,ローカル水素やバイオ,5G(Fifth Generation),エネルギー託送技術による多拠点連携など,本実証環境をさらに進化させ,新たなエネルギーソリューションの顧客協創を進めるとともに完全ゼロエミッション化の実現に貢献していく。

[04]協創の森:エネルギーマネジメントシステムの実証環境[04]協創の森:エネルギーマネジメントシステムの実証環境

5. 福島第一原子力発電所廃炉に向けた作業ロボット自律制御技術

廃炉作業に用いる遠隔操作ロボットのオペレータ操作負担の軽減による作業時間短縮を目的に,作業エリアへの移動から目的作業までの一連のプロセスの実行を支援する自律制御技術を開発した。

本技術は,ロボット位置の推定結果を基にクローラを目標軌道に追従させる移動制御技術,ロボットに搭載したカメラ画像から作業対象物の種類や相対位置を推定する学習型対象物認識技術,対象物へのアームの高速な接近動作を実現する学習型姿勢制御技術,対象物との相対位置に基づいてアーム手先を対象物へ位置決めする手先位置制御技術で構成される。オペレータは,作業開始・終了や作業要否の判断のみを実施する。

廃炉作業への適用を検討している水圧駆動ロボット試作機へ開発した自律制御技術を実装し,実機で想定される瓦礫撤去作業を例に,オペレータ手動操作と自律制御時の作業時間を比較評価した結果,本技術の適用により作業時間を30%低減できることを確認した。

(日立GEニュークリア・エナジー株式会社)

[05]遠隔操作ロボットの自律制御技術の構成[05]遠隔操作ロボットの自律制御技術の構成

6. 鉄道向け省エネルギー運転支援システム

鉄道運行の定時性と省エネルギーを両立するソリューションとして,列車の運行状態に基づいた運転操作を運転士にアドバイスするDAS(Driver Advisory System:運転支援システム)を開発した。

DASは既設の車上装置である車両情報制御装置の一機能として実装され,車両位置,速度および目標走行時間から,定時運行しながら省エネルギーとなる推奨運転操作情報を決定する。推奨運転操作の内容と操作タイミングは,運転台画面内の表示と音声鳴動で運転士に伝達する。試験運転ではDASを参考にした運転操作により,10%以上の消費電力量低減を確認した。

開発したDASは,東京モノレール株式会社10000形車両へ2021年7月から適用を開始し,営業運転条件下の運行データを収集中である。既設装置のソフト変更のみで低コストに導入でき,大きな省エネルギー効果が得られるDASの特徴を生かし,鉄道事業における環境負荷低減に貢献する。

[06]東京モノレール10000形の運転台画面におけるDAS表示例(左)とDASによる推奨運転操作の支援例(右)[06]東京モノレール10000形の運転台画面におけるDAS表示例(左)とDASによる推奨運転操作の支援例(右)

7. 脱炭素化に向けたCO2フリー燃料の燃焼シミュレーション技術

[07]燃料のモデル化とシミュレーション結果[07]燃料のモデル化とシミュレーション結果

近年,自動車エンジンから排出されるCO2について,さまざまな国や地域で大きな削減目標が掲げられ,新たな合成燃料であるe-Fuelの活用が検討されている。e-Fuelは,大気中や工場から排出される CO2を原料に,再生可能な電気エネルギーを用いて合成されるため,燃焼時に発生するCO2と相殺できるカーボンニュートラル燃料である。e-Fuelを既存燃料に混ぜて使用することで,CO2排出量削減に大きく貢献すると期待される。

e-Fuelを既存のエンジンなどの燃焼機器で使用するには,既存燃料との性状の違いによる影響を把握する必要がある。また実験では確認できない現象を数値解析により可視化することで,効率的な燃焼機器や制御法,運用法の確立につながる。そのために,e-Fuelの燃焼解析技術を開発した。

e-Fuelの化学反応を解き,その結果から,温度,圧力,当量比(混合気の燃料濃度を示す指標)の関数として燃焼室環境における燃焼速度の予測式を構築した。これにより,燃焼室内でのe-Fuelの燃焼速度を高速かつ高精度に予測できる。本モデルを日立で開発した燃焼解析プラットフォームに組み込み,e-Fuelの燃焼室内における燃焼現象の数値解析を可能とした。今後,本技術を活用して代替燃料対応の燃焼機器,制御技術の確立に貢献していく。

8. プラスチック資源循環を加速するプロセス最適化AI技術

持続可能な社会の実現において,限りある資源の有効活用が急務である。特にプラスチックは,枯渇資源の石油由来材料であり,生態系への影響が高いため,リサイクルなどの資源循環が強く求められている。しかし,リサイクル材は回収された廃材から製造されるため,材料特性がロット間でばらつきやすく,製品品質の安定化が適用に際しての課題である。

そこで,金型内センサーを活用して,材料特性の変動を特徴量として抽出し,品質安定化につながる最適プロセス条件を自動生成するAI技術を開発した。コアとなるAI技術は,特徴量と成形条件から品質を予測する回帰モデルを構築する「学習モード」と,回帰モデルと対象ロットの特徴量から最適プロセス条件を生成する「逆解析モード」より構成される。本技術の適用により,リサイクル材成形品のロット間の重量ばらつき70%低減を実現した。今後,本技術を活用した品質安定化ソリューションの実現をめざす。

[08]プロセス最適化AI技術の概要[08]プロセス最適化AI技術の概要

9. リチウムイオン電池の非破壊診断・容量回復技術

再生可能エネルギー電力の主電源化とモビリティの電動化のため,リチウムイオン電池(LiB:Lithium-ion Battery)を搭載した蓄電システムが普及しつつある。経年使用に伴うLiBの劣化により蓄電システムが容量不足に陥ると,LiBの交換が必要となるが,新品LiBの導入は資源使用量の増大,およびエネルギー消費によるCO2排出量の増大を招く。

そうした環境負荷の軽減をめざし,LiBのライフサイクルを伸長させる独自の診断・容量回復技術を開発した。電池運用データを用いて劣化状態を非破壊で診断し,独自の解析プロセスで導出した回復条件で電気化学処理を施すことで,構成部材の損傷を抑制しつつ,LiB内で失活したLiイオンの再活性化に成功した。負極に黒鉛,正極にLi-Ni-Co-Mn酸化物を用いたLiBに対する診断・回復処理により,初期の80%に低下した容量の一部を回復し,20%の寿命伸長を確認した。

本技術により,送配電事業者や電動モビリティオペレータなどに対して,蓄電システム稼働期間伸長やメンテナンスコスト削減,使用LiBの残価値向上といった価値を提供し,その事業性向上を通して脱炭素社会の実現に貢献する。

[09]リチウムイオン電池の非破壊診断・容量回復技術[09]リチウムイオン電池の非破壊診断・容量回復技術

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