日立評論

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研究開発

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日立評論

1. 大規模言語モデルを活用した自然言語意味解析技術

大量のテキストでニューラルネットワークを学習し,人間の言語に関する知識をモデル化した「言語モデル」により,自然言語処理の高度化が進展し,社会実装や業務活用への浸透が進んでいる。

言語モデルは,入力されたテキストを理解し,利用者の意図に即して文章の要約・翻訳などさまざまな機能を高い精度で実現することができる。日立は,言語モデルを活用する基礎技術の開発により,高精度に文意を理解することをめざしている。例えば,文書に記載された業務手順などを機械が代替できる手段に変換したり,音声会議から会議録の要約を生成したりする技術を開発している。

この言語モデルを活用した基礎技術は,コンペティション形式の国際ワークショップへの参加を通じて開発し,高い評価を得た。今後は,開発した技術のビジネスへの適用を進めていき,DX(デジタルトランスフォーメーション)推進による人々のQoL(Quality of Life)向上を実現する。

なお,本研究の計算資源の一部に,国立研究開発法人産業技術総合研究所のAI(Artificial Intelligence)橋渡しクラウドを利用した。

[01]言語モデルを活用した意味解析技術[01]言語モデルを活用した意味解析技術

2. 災害状況をAIで把握する映像解析技術

災害発生直後に広範囲に渡る被災地域を俯瞰的に捉え,人命救助やインフラ復旧を迅速に行うために,AIによる空撮映像解析に期待が集まっている。災害状況の把握にはさまざまな事象を認識する必要がある一方,AI学習に必要なデータの入手が難しいという技術課題があった。

今回開発した映像解析技術は,特性の異なる複数のニューラルネットワークを統合することで,大小さまざまに存在する複数の災害状況を同時に認識する。少ない学習データに対してはサンプル数に応じた重要度を導入し,誤りを含む学習データに対してはラベルに曖昧性を与えて学習することで,人では認識が困難な属性も認識可能になった。本技術は,米国国立標準技術研究所が主催するTRECVID(TREC Video Retrieval Evaluation) 2020ワークショップの災害映像解析タスクにおいて,トップレベルの認識精度を達成した。

今後,国土強靭化の取り組みにおいて,実際の現場で活用可能なソリューション化を図り,レジリエントな社会の実現に貢献していく。

[02]災害映像解析技術[02]災害映像解析技術

3. 異常行動検知技術

現在,交通機関などで利用者の安全を確保するため,多数の監視カメラを用いた大規模監視システムが広く普及している。膨大なカメラ映像から不審な人物を早期発見するため,異常行動検知技術を開発した。

異常の定義は多種多様であり,すべての行動を検知することは困難である。開発技術では,カメラ映像から平常時の行動をDNN(Deep Neural Network)により学習することで,行動特徴量空間上において正常行動の範囲を自動で特定する。検知時には,映像中の人物の行動特徴量をこの範囲と比較することで,正常/異常を判定する。種々の検知対象の異常行動を事前に定義することなく,カメラごとに数時間分の映像さえあれば通常行動の範囲を自動で特定できるため,設置環境に合わせエンハンス可能という特長がある。

本技術は,高速人物発見・追跡ソリューション「IVSearch」と連携することで,不審人物の検知から移動経路の追跡ができる。今後,各種検知技術の高精度化・高速化を行い,監視・警備業務の高度化に貢献していく。

[03]異常行動検知技術の概要[03]異常行動検知技術の概要

4. 高性能な新有機材料の開発を加速するAI技術

AIやシミュレーション技術などを活用して新材料を探索するマテリアルズインフォマティクスの高度化に向けて,これまで大量の実験データを必要としていた有機材料開発において,少量(数百件規模)の実験データでも高性能な新材料の候補化合物(化学式)を発案する深層学習技術を新たに開発した。

本技術は,大規模なオープンデータで学習した深層学習の内側に,実験データで学習した深層学習を埋め込む入れ子型構造を採用し,必要な実験データ数を削減している。また外側の深層学習で文字情報である化学式を一度数値情報に変換して,内側の深層学習でこの数値情報から性能に影響する成分を分離・調整することで高性能な化学式を生成する。

今後は,さらに本技術による化合物の性能を実証しつつ,多様化した市場ニーズに応える新素材の開発を支えるサービスとして展開していく。

[04]少数実験データで高性能な新材料の候補化学式を発案する深層学習[04]少数実験データで高性能な新材料の候補化学式を発案する深層学習

5. 特許動向分析のためのクラスタラベリング技術

企業が有する知的財産の情報を経営戦略に活用するIP(Intellectual Property)ランドスケープの普及に応じて,AIを活用した特許分析ツールの開発が盛んに行われている。その中でも,ユーザーが検索した特許集合に対してクラスタリングと可視化を行うマッピング機能は俯瞰的な特許動向分析機能の典型的な例である。これまで,クラスタに特許集合の代表的なキーワードを付与するクラスタラベリングでは,高頻度のキーワードを付与することが多く,クラスタ間のキーワードの重複によって各クラスタの特徴を捉えるのが困難であった。

今回開発したクラスタラベリング技術は,テキスト要約の技術を応用し,特許公報から抽出した技術用語の中から,クラスタ内の内容網羅性だけでなくクラスタ間におけるキーワードの重複も考慮したうえで,クラスタを代表する技術用語を選択する。この技術により,ユーザーは提供されたキーワードから容易にクラスタの特徴を捉えることが可能となる。

現在,本技術は日立の特許情報提供サービス「Shareresearch」(シェアリサーチ)※)において適用が開始されており,今後は,より効率よく調査できるよう処理速度や精度向上などをめざす。

[05]クラスタラベリング技術概要[05]クラスタラベリング技術概要

※)
世界98の国と地域の高精度な特許情報をサポートし,精度の高い調査環境を提供するサービス。

6. 組合せ最適化を加速するCMOSアニーリング最大規模の1.3 Mbitプロトタイプ構築

[06]9ボード接続1.3 Mbit CMOSアニーリングプロトタイプ[06]9ボード接続1.3 Mbit CMOSアニーリングプロトタイプ

社会イノベーション実現に向けて,大規模なスケジューリング最適化やポートフォリオ最適化などにより環境価値や経済価値の向上を実現するため,組合せ最適化問題の実用解を高速に探索するCMOS(Complementary Metal-oxide Semiconductor)アニーリング技術の開発を行っている。

社会課題の複雑化や大規模化に合わせて,解くべき最適化問題の規模が大きくなっており,より大規模なマシンの実現が必要となっている。今回,より大規模な課題を解くため,複数のチップを接続して動作させる大規模化技術を開発し,プロトタイプを構築した。プロトタイプは,16 kbitのCMOSアニーリングチップ9チップを1ボードに搭載し,さらにそのボードを9ボード接続し,全体では81チップが同時にアニーリングを実行し,1.3 MbitのCMOSアニーリングマシンとして動作する。このマシンを用いてユーザーと協創を進め,実際に適用する社会課題を見いだし,複雑化する社会課題の解決に寄与し,新しい価値を創造する。

本成果の一部は,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務(JPNP16007)の結果得られたものである。

7. 鉄道業務のDXを加速する次世代通信プラットフォーム

労働人口減少や運輸収入減少を背景に,鉄道事業者は鉄道運行業務の効率化を求められており,5G(Fifth Generation)を活用した業務のDXに期待が集まっている。そこで,自動運転,遠隔映像監視,スマートメンテナンスなど,DXを推進するさまざまな鉄道5Gアプリケーションに対し,高い信頼性や可用性を有する通信サービスを迅速に提供可能な次世代通信プラットフォームの有効性検証を目的としたプロトタイプを開発した。従来のアプリケーションごとに通信システムを持つサイロ型システムを本通信プラットフォームに統合することで,安心・安全な列車運行と保有アセットの削減による運行コストの削減を両立することをめざしている。

次世代通信プラットフォームのコンセプトに基づく鉄道5Gデモシステムを開発し,日立製作所中央研究所内の協創の森5G検証環境に構築した。指令所と列車間で通信を行う鉄道アプリケーションを自営網と公衆網を使用する通信プラットフォームに収容し,通信システムの一部に通信劣化が生じてもアプリケーションが動作することを確認した。

今後,次世代通信プラットフォームの実現に向けて,鉄道ビジネスユニットとともに開発と実環境での検証を進める。

[07]鉄道向け次世代通信プラットフォーム[07]鉄道向け次世代通信プラットフォーム

8. フィジカル・ディスタンシング誘発AR

COVID-19の感染拡大により,人の移動を制限するなどの方法では,小売,外食や観光など,人が3密になる可能性の高いサービス業の事業環境が悪化することが問題となっている。

これに対し,高精度な測距センサーを用いた人流計測・解析技術を用いて,個人を特定することなく人同士の距離を検知し,行動と連動して投影映像と音響が変化する行動誘発技術を開発している。デモンストレーションでは,プロジェクタにより歩行者の足元に投影される魚の映像の動きや,指向性スピーカーによる特定位置への音響提示によって,家族などのグループ内の寄せ合い行動やグループ間のフィジカル・ディスタンシングなどの感染リスクを低減する行為が,歩行者にとって楽しい体験を生み出すよう設計した。このように行動誘発ソリューションでは,歩行者自身が楽しむことと安全な行動とを,自然につなげることが可能となる。

今後,ウィズコロナ,アフターコロナの時代を見据え,人流計測・解析結果の人へのフィードバック手法の最適化に取り組み,行動誘発ソリューション事業拡大を図る。

[08]フィジカル・ディスタンシング 誘発AR(Augmented Reality)デモンストレーション[08]フィジカル・ディスタンシング 誘発AR(Augmented Reality)デモンストレーション

9. 分散型台帳技術とハードウェアのセキュリティ機能を用いたトラストサービス

データが企業の競争力の源泉として価値が高まる中,異なる業界の多種多様なデータをつなぎ合わせて活用することで,新たなサービスを生み出すことが可能になりつつある。その実現にはデータの透明性が重要であり,分散型台帳技術がその透明性を保証する。

一方,分散型台帳は参加組織すべてにデータを開示するため,機微情報の保護が必要である。そこで,Hyperledgerコミュニティでは,特定の権限保有者にのみ暗号化された分散型台帳の情報を開示する機能を開発するプロジェクトを発足した。同プロジェクトでは,ハードウェアのセキュリティ機能を用いて構築された信頼領域(TEE:Trusted Executed Environment)において,権限保有者のみが分散型台帳のデータを復号化してプログラムを実行する機能を開発している。日立は先行してプロジェクトに参画し,コミュニティと共同でトラストサービスに必要な技術を開発した。

今後は,機微情報を安全に共有しつつ新たな価値を創造するトラストサービスの普及に貢献する。

[09]トラストサービスのイメージ[09]トラストサービスのイメージ

※)
Hyperledger

10. ブロックチェーンを活用したトークンの開発とオープンソースコミュニティへの貢献

[10]ブロックチェーンを活用したトークンの発行と流通[10]ブロックチェーンを活用したトークンの発行と流通

スポーツやゲームのB2C(Business to Customer)領域では,コンテンツの所有権や利用権をデジタル化したトークンの取り引きが活発である。トークンの所有者や移転履歴のデータ改ざんを防ぐため,ブロックチェーンが用いられる。トークンをB2B(Business to Business)領域のサプライチェーン管理や環境価値取引に適用する場合,取引企業同士が業務要件に合わせてトークンのデータ項目や機能を擦り合わせる負荷が高い。

そこで日立は,トークン仕様の擦り合わせを効率化するため,トークンの標準仕様に準拠したレファレンス実装を開発し,Hyperledgerに提供した。Hyperledgerはエンタープライズ向けブロックチェーン開発にフォーカスしたオープンソースコミュニティであり,全世界で約200の企業が参加している。各企業は要件に合わせてオープンソースのレファレンス実装をカスタマイズすることで,効率的にトークンを設計・開発できる。今後,コミュニティを通じてトークンを活用した新たなデジタル経済圏の創生に貢献していく。

11. グローバルデータ流通基盤技術

各国・地域が定めるデータ保護法(個人データ保護を含む)を遵守しながら,国や地域をまたぐグローバルな分析・データ移転処理を円滑に行えるグローバルデータ流通基盤技術を開発した。

昨今,あらゆる社会活動においてデータの利活用が進む一方で,個人データや機密情報を厳正に管理し,適正に活用することが強く求められている。本技術は,個人データなどの機微な情報を含むデータを,生成された国や地域で人手を介さずに分析し,個人データを含まない分析結果のみに加工した後,別の国や地域に移転・集約するシステムである。日本,オーストラリア,米国,欧州の4拠点にシステムを構築して実証したところ,従来の手法と比較して,データ移転にかかる工数を約1/6に縮小できることを確認した。

本技術を活用し,データ保護を遵守しながら世界各地で生成されるデータの利活用を促進して,デジタル技術によるさまざまな社会課題の解決に貢献する。

[11]少ない工数で円滑にデータ移転を行うグローバルデータ流通基盤[11]少ない工数で円滑にデータ移転を行うグローバルデータ流通基盤

12. データカタログ連携DB統合技術Virtual Data Layer

データを活用した現場の業務効率向上や経営判断の迅速化に向けては,関連するデータを探し出し,組み合わせ,さまざまな観点で分析することが必要となる。企業内に散在しているデータの有効活用には,データカタログでの一元管理に加え,スピーディかつ安全にデータを利活用できることが重要なポイントであり,データカタログ連携DB(Database)統合技術Virtual Data Layerを開発した。

Virtual Data Layerのデータカタログ連携透過的データアクセス技術は,データカタログ上で組み合わされたデータ群に対して,分析者が複数データの格納場所を意識することなくデータを統合して提供できる。ポリシーベースデータアクセス制御技術は,各データに付いているタグ情報によりデータの機微性を判断し,あらかじめ設定したガバナンスポリシーをデータへのアクセス制御ポリシーに自動変換することで,分析者からのデータアクセスを制御する。以上により,スピーディかつ安全なデータ利活用の加速が期待される。

[12]データカタログ連携DB統合技術Virtual Data Layer[12]データカタログ連携DB統合技術Virtual Data Layer

13. アプリケーション開発効率化に資するプログラム自動修正技術

アプリケーション開発では,ソースコードに含まれる不良を取り除くデバッグ作業が行われる。アプリケーションの規模が大きくなるほどデバッグ作業に要する工数が増大するため,大規模なアプリケーションを迅速に開発するためにはデバッグ作業の効率化が必要となる。

そこで,ソースコードに含まれる不良の検出から不良の修正までを自動で行う,プログラム自動修正技術を開発した。本技術は,不良の検出に既存の静的解析ツールを用い,検出されたコーディング規約違反や潜在的な誤りなどの不良を,事前に定義した修正ルールに従い取り除く。

開発した技術は2021年10月より,日立アプリケーションフレームワーク「Justware」の一機能として提供されている。今後は,静的解析で検出する不良だけでなく,ソフトウェアテストで検出する不良の自動修正技術を実用化し,アプリケーション開発の効率化に貢献していく。

[13]プログラム自動修正技術[13]プログラム自動修正技術

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