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パワーグリッド

グリーンエナジー&モビリティ

1. カーボンニュートラル実現に貢献するHVDCの世界的な導入加速

[01]NordLink(ドイツ−ノルウェー)Wilster変換所,±525 kV・自励式双極,1,400 MW[01]NordLink(ドイツ−ノルウェー)Wilster変換所,±525 kV・自励式双極,1,400 MW

世界各地でHVDC(High Voltage Direct Current Transmission System:高圧直流送電)の建設が急速に進んでいる。日立エナジーは,世界に先駆けて1954年にHVDCを商用化して以来,世界の半数以上のHVDCを納入してきた。また,最新技術である自励式HVDCについても1999年に世界で初めて商用化して以来,2021年までに約30プロジェクト,15 GW相当の設備を納入してきた。現在も20 GW相当以上のプロジェクトを遂行中である。

日立のHVDCはさまざまなプロジェクトニーズやフィードバックから,高電圧化,大容量化,低損失化,変換所のコンパクト化,各種系統サポート機能(安定度向上など),保守性向上,デジタル化などの技術開発を継続的に行っている。

こうした中,国内においても再生可能エネルギー賦存量の大きい北海道と大需要地である東京を結ぶ長距離海底ケーブル送電の適用が検討されている。検討中の電圧(525 kV),容量(2.0〜2.8 GW),あるいは多端子などの構成は日立として既に実績のあるものであり,これらの実績,経験,知見を基に計画策定のサポートを行い,実プロジェクトには検証済みでロバストな技術を提供していく。

(日立エナジー・日立HVDCテクノロジーズ株式会社)

2. EconiQ開閉装置によるSF6フリーソリューション

EconiQ開閉装置は,日立エナジーが提供する脱炭素化社会に向けたカーボンニュートラルの実現を支援する環境効率の高い製品・サービス・ソリューションパッケージ「EconiQ」の一つであり,地球温暖化係数の極めて高いSF6(六フッ化硫黄)ガスを使わないことで環境への影響を低減し,CO2排出量削減に貢献する装置である。SF6フリー化の主な開発課題は,SF6と同等の性能とスケーラビリティを,同等のサイズで達成することである。特に適用される変電所の敷地面積の制約から,サイズが非常に重要となる。

EconiQ 420 kV 63 kA遮断器の開発完了は,SF6を使用せずに,最も要求の厳しいハイエンドな定格を商業的に実現できたことから,高電圧業界にとって歴史的なマイルストーンであり,画期的な成果である。この成功の鍵は,遮断器内部のプロセスを科学的に理解し,設計ルールをSF6から新しい混合ガスに変換し,同等の性能とサイズを維持することである。その結果,2,3,3,3-テトラフルオロ-2-(トリフルオロメチル)プロパンニトリル(C4-FN)混合ガスを使用して,SF6機器と同様のコンパクトなサイズを実現している。また,C4-FN混合ガスは汎用性が高く,既存のSF6ガス絶縁ライン(GIL:Gas Insulated Line)にも適用可能であり,既に実証に成功している。

[02]日立エナジーのEconiQロードマップによるSF6フリー開閉機器開発[02]日立エナジーのEconiQロードマップによるSF<sub>6</sub>フリー開閉機器開発

3. 環境効率の高い技術を組み合わせたカーボンニュートラルな高電圧開閉装置

[03]SF6フリーEconiQ 420 kVガス絶縁開閉装置向けの環境効率に優れた遮断器[03]SF<sub>6</sub>フリーEconiQ 420 kVガス絶縁開閉装置向けの環境効率に優れた遮断器

カーボンニュートラルなエネルギーシステムに移行するためには,持続可能な送電網設備とサービスが必要である。日立エナジーでは,10年以上にわたる研究開発を経て,省スペースで信頼性と拡張性に優れた高電圧開閉装置を実現する六フッ化硫黄(SF6)の代替技術を用いたEconiQ高電圧製品群向けの技術を開発した。EconiQ開閉装置は,最新のSF6装置と同等の省スペース性,低材料消費,拡張性を有する一方で,CO2換算排出量を99%削減可能な革新的な混合ガスを使用する。フルオロニトリル,CO2,酸素から成る混合ガスは絶縁性能と消弧性能に優れ,今後,遮断器・高電圧開閉装置業界のスタンダードとなり得ると期待される。

この混合ガスを用いることで,メーカー側も利用者側も, SF6を使用する機器で数十年にわたり培った絶縁設計やガス遮断器技術,材料選定,運用上の安全衛生,ガス取り扱いのノウハウを生かすことができる。さらに,フルオロニトリル,窒素,酸素の混合ガスを使用した既存設備向けのサービスも開発,実装されている。既設の420 kVガス絶縁送電線路の大量のSF6を前述の混合ガスに交換することで,将来のCO2換算排出量を大幅に削減することが可能となる。

(日立エナジー)

4. デジタル技術による保守合理化・高経年機器運用リスク低減および技能維持

近年,再生可能エネルギー増大による電力系統の安定度低下や電力供給能力の逼迫に伴い,発電所の変電設備や基幹変電所機器に対する重要度が高まっている。一方で,レベニューキャップ制度導入による設備維持・更新費用低減と電力安定供給という相反する課題解決が求められており,特に増大する高経年機器の健全性・運用リスクの評価に加え,将来の人口減少・高齢化を見据えた技術員の技能維持・伝承も課題となっている。

日立はこうした社会的課題の解決のため,日立エナジーのTXpert,MSM(Modular Switchgear Monitoring)によるオンライン機器監視システムおよび,監視データの分析,運用リスク評価,保守合理化ソリューションを提供している。特に,高経年機器については,リモート支援による技術員の運用効率化やノウハウ・知見のデジタル化,AI(Artificial Intelligence)を活用した保守ナレッジ支援システムを構築中である。また,更新・新設ニーズに対しては,国際標準規格を適用したデジタル変電機器パッケージにより,新たな顧客価値を提供している。

(日立エナジー)

[04]電力事業者と日立がめざす姿[04]電力事業者と日立がめざす姿

5. 世界初の145 kV乾式変圧器を水力発電所に設置

[05]顧客工場受入試験を終えた145 kV乾式変圧器[05]顧客工場受入試験を終えた145 kV乾式変圧器

日立エナジーでは,米国デュークエナジー社(Duke Energy)と共同で,サウスカロライナ州セイラム(Salem)にある780 MWの揚水式発電所であるジョカシー発電所(Jocassee Power Station)の老朽化した変電所のリニューアルプロジェクトを受注した。このプロジェクトは,変電所の延命に加え,湖岸に設置して50年になる変圧器からのオイル流出による水質汚染のリスクをなくすことである。

当社では,ソリューションの一環として,世界で初めて145 kV,定格出力3,000 kVA,公称電圧100 kVの乾式変圧器を開発した※)。このプロジェクトは,乾式鋳造コイル変圧器の高電圧絶縁に関する数年間にわたる開発の集大成とも言える。

さらに,それまで屋外に設置されていた変電所を屋内化することで,敷地を別の用途に利用できるようになった。その結果,人,設備,そして環境にとって安全なソリューションが実現し,短絡発生時の速やかな対応が可能となり,保守コストも削減された。

(日立エナジー)

※)
日立エナジー調べ

6. V2G向けマイクログリッドプラットフォーム アーリントンマイクログリッド

2022年はEV(Electric Vehicle)が伸長したと言われている。米国最大規模の公営電力会社の一つである,スノホミッシュ・カウンティ・パブリック・ユーティリティ・ディストリクト[SnoPUD(Snohomish County Public Utility District)]は,EVの重要性を認識し,デジタル技術が持続可能な未来を支えるあり方を示す最先端のマイクログリッドであるアーリントンマイクログリッドを公開した。アーリントンマイクログリッドは,日立エナジーのe-mesh PowerStoreグリッドフォーミングバッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS:Battery Energy Storage System)に,地域コミュニティの太陽光発電とV2G(Vehicle to Grid)対応EVフリート車両を組み合わせたものである。日立エナジーのe-mesh製品群による自動化は,V2G EVへのレジリエントな電力供給から,100%再生可能エネルギーで運用される基幹インフラに至るまで,電化された未来への期待に応えることができる。

日立エナジーのグリッドエッジソリューションでEVを地域の太陽光発電と組み合わせることで,EVはマイクログリッドにとってのDER(Distributed Energy Resource:分散型エネルギー源)となり,マイクログリッドはEVにとってのレジリエントな再生可能電力ハブとなる。これによりEVインフラが強化されるとともに,マイクログリッド側は安全でフェイルセーフな受電のための重要な設備が確立される。アーリントンマイクログリッドは,管轄地域の内外でグリッドエッジ技術を促進させるというSnoPUDの目標達成に向けたマイルストーンとなるものである。

(日立エナジー)

[06]アーリントンマイクログリッドの俯瞰写真[06]アーリントンマイクログリッドの俯瞰写真

7. VSC-HVDCシステムにおける動的容量のオンライン推定

化石燃料を使用しない電力系統の実現に向け,資産価値としての電力系統をより効率的に利用することがますます重要になっている。日立エナジーが開発したHVDC Lightは,世界中のさまざまなアプリケーションで活用され,エネルギー転換を加速させている。HVDC Lightの動的容量※)は,柔軟性,制御性,レジリエンスなど将来の電力系統の新たな課題に対処するとともに,電力系統の運用を総じて効率化するのに役立つと期待されている。

今回,動的容量の複数のコンポーネントへの影響とその相互作用について,電力系統の視点からドイツのHVDC国際連系線NordLinkに設置したMIMS(MACH Information Management System)データロガーで取得されたリアルタイム運用データに基づいて,PoC(Proof of Concept)を実施した。送電事業者による系統混雑の修復・管理の運用方法を改善するため,周囲温度とグリッド電圧に応じて動的容量を推定するソフトウェアのプロトタイプを開発した。将来的には,この機能を修復対策に活用して予防的再給電措置の実施を減らすことが可能になると考えている。

(日立エナジー)

※)
保証容量を超えて一時的に動作可能な容量

[07]VSC-HVDCシステムの動的容量に関する電力系統使用事例[07]VSC-HVDCシステムの動的容量に関する電力系統使用事例

8. 高性能STATCOMによる電力貯蔵と安全で安定したパワーグリッドの実現

現在の電力系統は,慣性の不足による安定性と信頼性の課題に直面している。これに対して日立エナジーでは,電力品質の課題に対するソリューションの提供を通じて顧客を支えるため,2021年,有効電力とグリッドフォーミングの能力を備えた系統安定化装置「SVC Light Enhanced」の販売を開始した。SVC Light Enhancedは,顧客が送電系統で必要とする慣性レベルの確保に役立つと期待されている。その構成要素は以下のとおりである。

  1. 送電系統に高電力および高電圧対応を組み込むモジュラーマルチレベル変換器(MMC:Modular Multilevel Converter)ソリューション
  2. 従来のMMC STATCOM(Static Synchronous Compensator)を拡張して有効電力の能力を付加する高電力対応の電力貯蔵技術
  3. システムの統合と制御を容易にする日立エナジーの電力MACH(Modular Advanced Control for HVDC)制御プラットフォーム
  4. 瞬時の慣性応答と電圧応答を実現するグリッドフォーミング制御機能

また,SVC Light Enhancedは,以下を目標に設計されている。

  1. 慣性応答,周波数応答,電圧調整をはじめとする多彩な機能を提供可能な,送電系統向けオールインワンソリューション
  2. 柔軟性が高い,モジュール型のスケーラブルなソリューション
  3. 省スペースかつ低電力損失,長寿命で,保守も簡単な所有者にとって魅力的なソリューション

(日立エナジー)

[08]SVC Light Enhancedの主要構成要素[08]SVC Light Enhancedの主要構成要素

9. 系統強度サポートによるネットワーク上のインバータベースのリソース導入率向上

2021年初頭,日立エナジーとAEMO(Australian Energy Market Operator)の共同により,系統強度をサポートして脆弱な電力ネットワークへの再生可能エネルギーの大量導入を可能にするため,先進的なVSM(Virtual Synchronous Machine:仮想同期機)インバータ技術の有効性に関する調査を世界に先駆けて実施した。

本調査の背景には,オーストラリアの全国電力市場(NEM:National Electricity Market)に初めて接続された先進インバータBESSであるDalrymple BESSの性能,そしてWMZ(West Murray Zone:西マレーゾーン)における系統強度に関する課題があった。

この調査の結果,WMZの障害後の電圧変動の抑制について,60 MVA VSMと60 MVA Synconとで同程度の系統強度のサポートが得られることが分かった。このことから,VSMは,NEMの脆弱なエリアにおいて大量の再生可能エネルギーを接続して運用するための現実的なソリューションであり,市場サービスを提供する能力を強化するものと言える。この結果を受けて,先進インバータ技術に対する業界の理解が進み,ゼロエミッション電力系統の実現に向けてこの技術が担う役割の重要性が高まるものと考える。

(日立エナジー)

[09]VSMによりSCOと同程度まで抑制される擾乱後の電圧振動の波形[09]VSMによりSCOと同程度まで抑制される擾乱後の電圧振動の波形

10. 余剰電力損失および循環電流の解析による負荷時タップ切換器の監視と保護

[10]63 MVA変圧器のタップ切換動作中の瞬時余剰電力損失[10]63 MVA変圧器のタップ切換動作中の瞬時余剰電力損失

電圧調整に使用される負荷時タップ切換器(OLTC:On-load Tap Changers)は,変圧器の唯一の可動部であり,年間の故障原因の1/3以上を占めることから,頻繁な保守点検が必要な機器である。

日立エナジーの研究センターでは,OLTCの動作をオンラインで監視する新たな方法と,不完全なタップ動作に対する保護機能を開発した。これは,一般的な保護等級の計器用変圧器の信号を,最新の変電所向けデジタル保護リレーまたは外乱記録装置でデジタル化することによって実現される。そのため,ほとんどの場合,実装のためにセンサーや収集ハードウェアを追加したり,稼働を停止したりする必要がない。

監視アルゴリズムは,数種類のOLTCの動作を現場で2万回以上記録することによって検証された。その結果,特定のOLTCの各接触位置の微妙な違いを十分に観測できる精度を持つ監視パラメータを抽出し,長期的な傾向を監視可能であることが分かった。保護機能は最新のデジタル保護リレー上に実装できるよう設計されており,現代の環境の標準的な要件を満たしている。

(日立エナジー)

11. デジタル変電所IoTセンサーデータのデジタルエンタープライズへの統合

[11]IoTリファレンスアーキテクチャ[11]IoTリファレンスアーキテクチャ

デジタル変電所に対する関心が高まり,その導入が進む中,IoT(Internet of Things)を通じて変電所から送られてくるデジタルデータの量が劇的に増加している。こうした中,IED(Intelligent Electronic Device)を重要な資産と見なし,他の資産と同様にエンタープライズアセット管理ならびに設置基盤とのオンライン接続によりフルサポートで管理する必要があるという認識が資産所有者に広がり始めている。IEDの健全性はサイバーセキュリティはもちろん,その他の観点からも分析する必要があり,状態監視および資産のライフサイクルを通して起こる変化について完全なトレーサビリティが要求される。IED資産のフリートは今後さらに増加することが予想されるため,最もリスクと重要度の高い資産に的を絞って分析することが重要である。これにより,リソースと人財のより効果的な活用が可能となる。

また,サイバーセキュリティ規制も背景要因の一つであり,資産所有者は資産の状態とそれに関連するリスクを確実に把握することが求められる。デジタル情報を電力会社のビジネスプロセスにつなげることで,変電所の資産の運用保守を向上させることが可能になる。IEDのようなデジタル資産は,サイバーセキュリティ規制に準拠することが求められる。既存のLumada APM(Asset Performance Management)にIEDを統合するという提案のコンセプトにより,変電所のライフサイクル全体を通して運用保守が必要となる資産を可視化し,関連する洞察を得ることが可能となる。

(日立エナジー)

12. データ解析とリーンIIoTによるコンピューティングIntelligent Insights

送電事業者にとって重要なのは可用性の確保であり,HVDC直交変換所の稼働率を高い水準に保つことが最優先事項である。そのため,最新の技術革新を考慮し,HVDCシステムの状態監視と予知保全に向けたさらなる取り組みが必要な,従来の定期保守の考え方を補完する新たなアプローチと戦略が検討・採用されている。IIoT(Industrial IoT)によって実現されたDX(デジタルトランスフォーメーション)により,グリーンフィールド(更地)とブラウンフィールド(跡地)のそれぞれの変換所向けのデータ分析プラットフォームの新しいビジネスモデルやサービスが次々と出現している。このようなコンピューティングの観点から有望視されているソリューションの一つがML(Machine Learning:機械学習)アルゴリズムを用いたデータドリブンのアプローチの適用であり,実際に多くのユースケースにおいて,複雑なHVDCドメインの装置およびコンポーネントの状態を分析する,効率的かつインテリジェントな先進的学習アルゴリズムが複数開発されている。例えば,タップの切換データに基づく変圧器OLTCの異常の事前検出,変換所の故障を検出する深層学習分類器,HVDCバルブ冷却システムの迅速な漏れ検出※)をはじめとして,多くのユースケースが挙げられる。

健全性の指標はFACTS(Flexible Alternating Current Transmission Systems)などのアプリケーションやロケーションプロファイル(オフショア,オンショアなど)によって異なる可能性があるため,このような異常検出手法は,HVDC電力資産のみならずシステムレベルにおいても,幅広い分野にわたる高度な保守サービスを実現することに役立つものと考えられる。これにより,部品状態の劣化を観察し,その結果に基づいて保守を実施できるようになる。

(日立エナジー)

※)
わずかな漏れを正確に検出し,大きな漏れを従来の手法よりも迅速に検出して,誤検知を防ぐロバストなMLアルゴリズムの開発を目的とする。

[12]漏れ検出結果の例[12]漏れ検出結果の例

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