1. 大規模集積に適したシリコン量子ビット制御技術
量子コンピュータは,従来のコンピュータで不可能な超高速の計算を可能にし,材料開発,創薬,金融などの幅広い産業分野での活躍が期待される。一方,そのような実用的な計算を行うためには,100万量子ビット以上の規模の量子コンピュータが必要となる。
日立は,シリコンの集積性を生かしたシリコン量子コンピュータの開発を進めている。シリコン量子コンピュータでは,シリコン素子中に形成した「量子ドット」と呼ばれる微細構造の中に一個の電子を閉じ込め,電子の持つスピンを制御して「量子ビット」として用い,演算を行う。
今回,大規模に集積した量子ビットを効率よく制御可能な「シャトリング量子ビット方式」を提案し,その効果を確認した。提案方式では,量子演算を行う領域をあらかじめ設定し,量子状態を維持したまま電子を自由に移動させ(シャトリング),演算・読出しなどの処理を行う。隣接する量子ビットを退避させながら処理を行うことで,大規模集積化を阻む要因となっていた隣接する量子ビットの間で発生するクロストーク(エラー)を抑制することが可能となる。この効果を取り入れたシミュレータを構築したところ,大規模な量子演算において,本提案方式が従来型(量子ビットを固定した方式)に比べて高い量子計算精度を維持できることを確認した。JST(Japan Science and Technology Agency:国立研究開発法人科学技術振興機構)ムーンショット型研究開発事業をはじめとするオープンイノベーションを通じ,大規模集積化に向けた研究を加速し,量子コンピュータの早期実用化をめざす。
本研究は,JST「ムーンショット型研究開発事業」グラント番号「JPMJMS2065」の支援を受けたものである。