水・環境コネクティブインダストリーズ
1. 東京都水道局 多摩水道統合監視システム
東京都多摩地区では,39か所の浄水所,58か所の給水所,102か所の配水所,75か所のポンプ所によって,平均約115万m3/日を地区内に配水している。
東京都水道局の東京水道施設整備マスタープランでは,多摩地区の水道の強靭化施策の一環として,多摩地区に点在する水道施設を一元的に運転監視することを掲げている。
日立は,統合監視操作設備設置工事を2019年に受注し,約5年をかけて多摩地区すべての水道施設を一元的に運転監視できる統合監視システムを構築した。
本システムの特徴として,統一したHMI(Human Machine Interface)を用いることで,従来施設ごとに異なっていたHMIの操作性を統一した。また,信号を収集する通信装置は二重化構成とすることで,システム全体の信頼性・冗長性を向上した。
今後もシステムの安定稼働のための保全作業や,水道施設の設備更新に伴う機能拡充を重ね,多摩地区の安定した水供給を支えていく。
2. 栄養塩類供給管理による下水道ブルーカーボン構想
下水道においては,栄養塩類の除去のため高度処理が普及し,特に閉鎖性海域の水質を改善してきた。しかし,近年は貧栄養化という新たな問題もあり,生態系や水産資源の観点から,きれいなだけでなく豊かな海を求めるニーズが高まっている。さらに,海草・海藻などの海洋生態系により海中に吸収・貯留される炭素(ブルーカーボン)は,温暖化対策で注目されている。
そこで,下水道からの適切な栄養塩類の供給により,豊かな海と脱炭素を同時に実現する「下水道ブルーカーボン構想」を立ち上げた。本構想の実現に向け,産官学にまたがる下水道および海洋の専門家の賛同と協力の下に,2022年12月,「ブルーカーボン促進のための栄養塩供給管理プロジェクト」を発足した。本プロジェクトでは,技術的・制度的課題や必要な技術体系の整理と具体化,社会実装に向けたロードマップ作成に加え,セミナーや白書発刊による発信活動も進めている。脱炭素や生物多様性の確保,水産資源の持続的利用などの地域貢献に向け,今後も多様な関係機関と連携し,社会実装に向けた取り組みを加速していく。
3. 東京都下水道局 中川水再生センター遠方監視制御設備
東京都下水道局の中川水再生センターは,足立区の大部分と葛飾区の一部を処理区としており,足立区周辺の汚水と雨水を処理しつつ,かつては降雨時の浸水が頻発していた地域の浸水防止や河川の水質改善を行っている(処理能力225,000 m3/日)。また,中川水再生センターは,地域に降った雨を集め,ポンプで汲み上げて河川に放流する東金町ポンプ所,熊の木ポンプ所,加平ポンプ所と局独自の光ファイバー通信網を使って接続されており,遠方監視制御を行っている。今回,ポンプ所側の小規模監視制御装置の老朽化に伴い,同装置を更新するとともに,中川水再生センター側のポンプ所用監視制御装置の更新も同時進行で実施した。主な更新作業の特長は以下のとおりである。
- 各設備に配置されているコントローラおよび通信路を二重化することで,信頼性を向上させた。
- 中川水再生センターと東金町ポンプ所,熊の木ポンプ所,加平ポンプ所の通信は,FA(Factory Automation)プロトコルと呼ばれる東京都下水道局独自の共通通信規約を用いるFAデータ伝送装置を納入し,通信の信頼性確保と制御応答高速化を実現した。
(運用開始時期:2023年4月)
4. バイオマスプラスチックの下水道機器部品への適用
主務チェーンに軽量で耐食性・耐摩耗性に優れた300クラスステンレスチェーンを使用した汚泥掻き寄せ機はリサイクル性に優れた下水道向け機器である。しかし,一部の部品に使用されている化石燃料由来の樹脂を使用しており,現状,それらの樹脂はリサイクルされず,焼却処分されている。そこで日立は,バイオマスプラスチックを使用した部品(シュー・フィラーブロック)を開発した。
バイオマスプラスチックの主原料は植物由来であり,焼却時に発生するCO2が植物の生育に伴って一部吸収・相殺されるため,化石燃料由来の樹脂と比較してCO2の発生量を抑制することができるとされる。一方,開発部品に要求される耐久性などの特性については,現行の化石燃料由来品と同等以上の試験結果を得ている。
今回開発した部品について,日本バイオプラスチック協会のバイオマスプラ識別表示制度のマーク使用許可を2024年7月に取得した。今後も水処理機器へのバイオマスプラスチックの導入検討を行い,カーボンニュートラル社会の実現に寄与していく。
5. AIを活用した汚泥脱水機の安定運転支援技術
産業排水処理の分野では,排水処理設備の汚泥性状の変化が大きいため,汚泥脱水機から排出される脱水汚泥の含水率は作業員の運転調整スキルに依存している。しかし,熟練作業者の退職などに伴い,スキル不足の作業者が運転調整するケースが増加しており,その結果,調整不足による運転の不安定化,脱水汚泥の含水率上昇と処分コストの増加が課題となっている。
そこで,画像解析AI(Artificial Intelligence)を活用した汚泥脱水機の安定運転支援技術を開発した。画像解析AIには機械学習を用い,凝集槽のフロック画像およびスクリュープレス脱水機の脱水汚泥画像と,それぞれの画像に対してフロック状態と含水率をラベリングしたデータを学習モデルとした。画像解析AIは,フロック画像と脱水汚泥画像が入力されると,フロック状態と含水率を推定し,さらに,推定結果から凝集剤注入量の設定指針を決定する。本技術を通じて作業者のスキルを補うことで,汚泥脱水機の性能安定化や汚泥処分コストの低減を図る。
6. 創エネ・畜エネ設備を備えた環境配慮型店舗の構築
株式会社三菱UFJ銀行と日立は,可動式蓄電池(バッテリーキューブ)と太陽光発電,電気自動車などを組み合わせた環境配慮型店舗の新たな仕組みを三菱東京UFJ銀行練馬支店(東京都練馬区)に導入し,有効性の実証を開始した。
この実証では,日中,駐車場に設置したソーラーカーポートにより得られた太陽光発電の電力を,日立が提供するリユースバッテリーを活用したバッテリーキューブに蓄電し,夜間に蓄えた電力を9台の営業車(電気自動車)へ充電することで,創出した再生可能エネルギーを最大限利用し,店舗のエネルギー自給率を高める。日立は,一連の運用を実現する充放電制御のためのEMS(Energy Management System)も納入する。
また将来的には,営業車の電気自動車から取り出したバッテリーをバッテリーキューブへ再利用することにより,サステナブルな資源の活用を検討していく。
7. Nakanoshima Qross内にショールーム施設を開設
2024年8月1日,大阪府と21の民間企業などで設立した一般財団法人未来医療推進機構が運営する未来医療国際拠点「Nakanoshima Qross*」(大阪府大阪市)内に,日立グループの最新テクノロジーを通じて医薬・ATMP(Advanced Therapy Medicinal Products)分野のバリューチェーン全体にわたるさまざまな課題を解決する,顧客との協創を目的としたショールームをオープンした。
本ショールームでは今後,三つの「場」から顧客課題の解決に向けたソリューションの創出をめざし,日立グループのITおよび各種ソリューション,OT(Operational Technology),多様なプロダクトの活用,「Nakanoshima Qross」に入居する企業をはじめとしたパートナー,業界団体・公的機関などとの協創を推進していく。
これにより,医薬・ATMP分野の顧客のフロントラインワーカーの生産性および事業価値向上,さらには患者への未来医療の提供に貢献していく。