デジタルシステム&サービス研究開発
1. ITシステムの近代化とハイブリッドクラウドによる持続性強化
現在のITシステムにおける重要なトレンドは,旧来のVM(Virtual Machine)環境の見直しと,生成AI(Artificial Intelligence)のGPU(Graphics Processing Unit)需要の高まりの2点である。顧客は以下の二つの重要な課題の解決を求められている。
- 既存のVM環境を近代化して新プラットフォームに移行する必要性が高まっている。しかし,複雑で時間の掛かるプロセスにより阻害されるケースが多い。
- 生成AIなどの計算量の多いアプリケーションの需要増により,データセンターのエネルギー消費量が大幅に増加し,運用コストと持続可能性の両面に影響を与えている。
日立ヴァンタラと日立アメリカのR&D(Research and Development)部門は,これらの課題に対して以下の二つの革新的なソリューションを提供する。
- 既存VMプラットフォームから新プラットフォームへのシームレスな移行を可能にするVM移行技術を提供し,効率的なストレージベースのコピー技術を活用してプロセスを簡素化,高速化する。
- 一元管理ダッシュボードを通じて,VMなどのワークロードレベルでのCO2排出量を推定し,カーボンフットプリントを可視化することで,データセンターがエネルギー消費量を監視および最適化して持続可能性を向上できるようにする。
(日立ヴァンタラ,日立アメリカ)
2. データストレージ向け 高圧縮LZMAアルゴリズムの高速化技術
企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展に伴い,データセンターが扱うデータ量が増大する中,データ保持コストの低減が課題となっている。
これに対して,高い圧縮率と高い性能を両立するデータ圧縮技術を開発した。高い圧縮率を達成するデータ圧縮アルゴリズムとして,当初はLZMA(Lempel-Ziv-Markov Chain Algorithm)が採用候補であったが,LZMAは入力ビットに対して逐次演算するため,並列処理による高速化が困難であった。そこで,複数の入力ビットに対して可能性のある全通りの演算を並列実行して正しい解を選択する独自の高速化技術を開発し,圧縮伸張処理ハードウェアとして搭載した。この高速化により,LZMAが採用可能になった。
本技術は,ミッドレンジストレージHitachi Virtual Storage Platform 2U Block Applianceに採用されている。
3. Pentaho Data Catalog向け 個人識別情報検出技術
PDC(Pentaho Data Catalog)は,ビジネス上の意思決定を行うための,データのカタログ化・発見・管理を実施するソフトウェアである。近年のAIの普及に伴い,AIモデルからの機密情報流出を防止するため,モデルのトレーニングデータに含まれる個人識別情報(PII:Personal Identifiable Information)の検出・除去が不可欠になっている。従来,データからのPII検出には正規表現が用いられていたが,多様なPIIに柔軟に対応できず,十分な精度が得られていなかった。また,大規模言語モデルは精度向上に多くの計算リソースが必要であり,PDCへの適用は実用的ではなかった。
そこで,高い精度と計算効率を両立するため,トランスフォーマーベースのAIモデルを導入し,モデルの量子化を行った。非構造文書における住所検出精度が従来手法比で89%向上し,日本語と韓国語を含む構造データにおけるPIIデータの検出精度において90%超を実現した。本技術は,PDCバージョン10.2以降に搭載されている。
4. 生成AIとインダストリアルAI活用によるフロントラインワーカーの支援
日立アメリカは,インダストリアルAIと生成AIを組み合わせることで,産業オペレーションの要であるフロントラインワーカーを支援し,作業者の働きやすさと業務効率の改善をめざしている。この取り組みにおいて,以下のソリューションを構築した。
- 修理作業における意思決定を支援するため,装置マニュアルからフォルトツリーを学習し,従来は数週間掛かっていたフォルトツリー作成時間を数時間に短縮した。フォルトツリーの構築後は,生成AIが診断および修理中に作業者にステップバイステップのガイダンスを提供する。
- 生成AIを用いて,自然言語の指示をロボットが理解可能な一連の指示に変換するインタフェースを構築し,人間とロボットが現場で協調作業できるようにした。
- AR(Augmented Reality)のガイダンスを通じて,作業者による産業用機器やプロセスの点検をAIで支援するツールを開発した。
これらのソリューションを通じて,AIによるフロントラインワーカーの思考と意思決定能力の拡張を支援する。
(日立アメリカ)
5. 弾力性に優れたデータセンターインフラとOTシステムの実現
データセンター市場の急成長に伴い,ITシステムは大きく進歩し,動的なリソースのスケーリングと最適化が可能となっている。しかし,クラウド事業者やデジタルプラットフォームが数百万ものユーザーを同時にかつ効率的に処理するためのITの弾力性を熟知しているのに対し,データセンターのOT(Operational Technology)システムは同様の柔軟性を実現するうえで固有の課題に直面している。
従来のOTシステムは固定の容量と冗長性要件(電源のN+1または2N構成など)で設計されるが,特にマルチテナント環境において,迅速なスケーリングが可能となるようにシステムの進化が必要である。こうしたITとOTの差異は,いかにして信頼性を維持しながら,固定的な物理的インフラを効率的にスケーリング可能なシステムに変革するかという課題を生み出している。つまり,ソフトウェアによって弾力的に変化する容量を効率的に管理するため,OTリソースを最適化し遊休容量を抑えつつ,過剰な消費を防ぎながら,スケーリング時にも安定した可用性を維持するという課題である。
日立アメリカは研究開発を通じて,データセンターのリソース利用を最適化し,スケーラビリティを向上する適応型エコシステムソリューションの創出をめざしている。今回開発した施設仮想化プラットフォームは,マルチテナント環境において,権限に基づいて協調的な監視を提供し,AIベースのアラーム管理と微気候プラットフォームによって,電力および冷却のモジュール単位での割り当てを実現し,最新のデータセンターが求める柔軟かつ効率的なインフラを確保する。
6. アプリの迅速な開発・導入を実現するデータ統合AI
鉄道,電力,製造業など多くの分野では,業務ごとにシステムがサイロ化されており,システム横断での業務改革・業務効率化が困難という共通の課題がある。例えば,製造業ではERP(Enterprise Resource Planning),PLM(Product Lifecycle Management),MES(Manufacturing Execution System)などのITシステムや,ロボットコントロールシステム,コンピュータビジョンシステムなどのOTシステムがそれぞれ独立して運用されている。これにより,生産現場で発生する課題を迅速に解決するための新規アプリの開発・導入が困難となっている。
この問題を解決するため,日立はデータ統合AIを開発した。データ統合AIは,開発者の要求を解釈し,過去のOTナレッジからシステムのつながりやデータの所在,プロトコルなどの情報を生成AIで検索する。そして,現場システムやデータをつなぐためのAPI(Application Programming Interface)を自動生成する。この技術により,サイロ化されたシステムのシームレスな連携が実現し,システム間連携アプリの迅速な導入が可能となる。現在,北米の工場で本技術の導入効果を検証中である。
7. 自治体の成果連動型事業を支援するEBPMビジネスプラットフォーム
日本政府は適切な介護予防により年間3.2兆円の介護給付費を抑制可能と推計している。生涯QoL(Quality of Life)向上と財政適性化の両面で,良質な予防サービスの社会的意義は大きい。一方で行政が市民に広くサービスを提供していくためには,民間企業の貢献が期待される。しかし,予防の費用対効果を把握できないことが,民間サービス導入と適正な市場価格形成の障壁となっている。予防の受益者が成果を分け合う成果連動(PFS:Pay for Success)型事業によってサービス普及促進を加速する,新たな仕組みの社会実装が急務である。
日立は「令和4年度東京都次世代ウェルネスソリューション構築支援事業 連携プロジェクト」にて,日立のセキュアなパーソナルデータ利活用基盤と介護・健康・医療のビッグデータAI分析技術を活用したEBPM(Evidence-based Policy Making)ビジネスプラットフォーム構想を策定し,原理検証を実施した。令和5年度以降は,基礎自治体と連携して予防サービスの効果をビッグデータAI,および統計的因果推論により定量化できることを明らかにしている。自治体のエビデンスに基づくPFS型介護予防の推進に貢献することで,市民のQoL向上に寄与する介護予防サービスの実現をめざしていく。
8. 福祉相談・支援業務の負荷軽減に貢献する相談支援ソリューション
近年,社会福祉における支援ニーズは複雑化しており,社会的孤立やヤングケアラーといった既存制度の対象となりにくいケースや,ダブルケアのように世帯・個人が複数の課題を抱えるケースが明らかになっている。それに伴い,支援を行う福祉相談・支援員の業務量増加や経験・スキル継承が問題となっている。
日立は,デジタルの力で持続可能な福祉に貢献するべく,相談・支援員の業務効率化と質向上を図る「相談支援ソリューション」の開発・社会実装に取り組んでいる。本ソリューションは,相談記録データを作成・活用することで,相談時のアセスメントのサポートや,利用できる制度情報および類似記録のレコメンドなどを行う。2024年度は複数の自治体とプロトタイプの開発を進めており,デジタル技術だけでなくNEXPERIENCE※)も活用しながら,対人コミュニケーション中心かつ暗黙知の多い福祉相談・支援業務のDXをめざす。
- ※)
- パートナーとの協創を通じて新しいビジネスやサービスをつくり上げていくための日立の協創⽅法論。
9. ロードマップ策定と意思決定を支援する未来シナリオシミュレーション技術
将来の社会課題を踏まえた意思決定が,官民の両方で求められている。しかし,想定される社会のシナリオを網羅的に検討し意思決定することは難しく,(1)シナリオが無数に存在し,そのすべての考慮が難しいことと,(2)いつ何をするかといった,具体的な施策に関する議論が難しいことという二つの課題が考えられる。
未来シナリオシミュレーションでは,この課題に対して二つのアプローチをとる。まず,ワークショップでの議論やデータに基づき,意思決定に必要な指標の関係性を記述した因果連関モデルを作成する。これに基づく大量の未来シナリオの生成とそれらのグルーピングを自動的に行うことで,将来起こり得る無数のシナリオを考慮しやすくする。さらに,どのシナリオのパターンに進むかの分岐点となった時期を選択し,その分岐点での各指標の感度解析により,どの指標がシナリオに影響するかを可視化することで,具体的な施策に関する議論ができるようにする。
10. 社会的処方の実現に向けた因果推論技術
少子高齢化に伴う地域医療・介護施設の負担増加を,民間・行政の保健福祉サービスの積極的活用により解決する「社会的処方」について,新潟県十日町市で効果を実証するとともに,取り組みを支援するための新たな解析技術を開発した。
技術開発に当たっては,新潟大学および十日町市と連携して,通院中の糖尿病患者に対し,リンクワーカーが地域の栄養・運動指導を紹介する取り組み「とおかまち健康の処方箋」を立ち上げた。第一段階として約3か月間の介入を行う小規模実証を行い,参加者のHbA1c※1 )の有意な改善を確認した。
また,「社会的処方」の正確な効果評価には,地域特性などの疑似相関を生む交絡因子の存在が課題である。そこで,LiNGAM(Linear Non-Gaussian Acyclic Model)を用いて介入変数,交絡因子候補,結果変数の因果グラフを繰り返し探索する因果推論技術を開発した。本方式により,属性や検査値などの項目から90%以上の精度で交絡因子を特定した。
これらの取り組みを推進し,持続的な社会保障を実現する社会的処方のソリューション展開をめざす※2)。
- ※1)
- 血液中のヘモグロビンと糖が結合している割合をパーセント(%)で表した値。
- ※2)
- 本研究の一部は,JST(Japan Science and Technology Agency),RISTEX(Research Institute of Science and Technology for Society),JPMJRS22I1の⽀援を受けたものである。
11. 漏水箇所検知技術
従来,水道管の漏水調査では,調査員が音聴棒を用いて漏水音を特定する音聴調査と呼ばれる手法が用いられてきた。しかし,広域にまたがる給水区域全域の巡回点検は,時間を要し,かつ,調査員の技量や経験に検知精度が依存するという課題がある。日立は,小流量の地中漏水も検知可能な超高感度振動センサーを用いた漏水監視サービスを提供しているが,漏水箇所を見つけるにはセンサーの発報後に調査員による付近の調査が必要である。
このたび,調査員の技能や経験に頼る音聴調査に代わり,地中レーダー探査装置を利用した人手の技量や経験に依らない新たな漏水箇所の検知技術を開発した。本技術は,漏水が疑われる付近を探査して取得したレーダー画像を,開発した独自のアルゴリズムにより解析し,漏水の特徴を捉えるものである。開発技術を漏水監視サービスと併用することで,調査員の技量や経験に依らずに漏水箇所を見つけることができるようになり,老朽化が進む水道管をより効率的に運営保守することが可能となる。デジタル技術を活用することで,都市インフラの運営保守を支えるフロントラインワーカーの生産性向上を支援し,安全・安心かつレジリエントな都市の実現に貢献していく。
12. 高信頼実行環境TEEを活用した秘匿情報処理技術
機微情報から付加価値を創出する機運が高まる一方,世界的に情報漏洩事案が後を絶たず,情報保護規制が強化されている。機微情報の利活用において「安全性」と「利便性」はトレードオフの関係にあるが,これらを両立できれば,これまで以上の顧客価値を創出できる。
日立は,機微情報を取り扱う秘匿情報処理業者が,データホルダーの機微情報および処理結果利用者の処理要求を秘匿したまま,高信頼実行環境TEE(Trusted Execution Environment)による秘匿情報処理サービスを効率よく提供するための技術を開発した。TEEはRoot権限を奪われても安全な信頼領域内でデータを復号し,任意の演算が可能だが,TEEへのデータの取り込みと復号処理がオーバヘッドになるという課題がある。それに対し,検索可能暗号によりTEEへ取り込む前に必要な暗号データを秘匿したまま抽出することで,データ取り込みおよび復号時間を削減し,処理結果の応答時間を短縮した。
この技術はTEEを活用した「匿名バンク」拡張基盤などにおいて,顧客の安全性と利便性を両立した情報利活用に貢献することが期待される。
13. ファイルレスランサムウェア検知技術
近年発生しているランサムウェアの中には,ハードディスクなど記憶装置上に痕跡を残さないファイルレスマルウェアと呼ばれるものがある。ファイルの特徴を検査する従来方式では検知が難しく,プロセスの振る舞いに基づく方式では検知までにいくつかのファイルが犠牲となることや,正常プロセスに悪性コードを注入する攻撃の検知が難しいという課題が存在する。
そこで本研究では,プロセスが記憶装置に送信するバイト列をIRP(I/O Request Packet)から取得し,情報エントロピーの点からデータの乱数度を求め,ファイルヘッダの特徴と合わせて不審度を算出し,ランサムウェア特有のファイル書き込みを検知・遮断して被害抑止を実現する技術を開発した。
本技術は,株式会社日立ソリューションズの提供する情報漏洩防止ソリューション「秘文」や「データ回復ソリューション」に用いられており,顧客のIT環境における重要資産の保護に貢献していく。
14. 情報制御システムの新価値創生を支えるクラウドベース高信頼プラットフォーム
鉄道や電力などの社会インフラシステムにおいて,社会ニーズの変化に対応するための高信頼クラウドプラットフォームの研究開発を進めている。これまでの制御システムは専用OS/HW(Operating System/Hardware)や通信路により信頼性を確保していたが,今後はクラウドなど新たなIT技術を活用し保守性,拡張性を向上することが求められている。
そこで,クラウドシステム上に複数の制御機能を集約し,従来同様の信頼性およびリアルタイム性の維持と,監視・制御・点検の遠隔・効率化,さらに社会変化に応じた柔軟なシステム変更への対応を可能とするべく,以下の三つの方式およびメカニズムを開発した。
- 専用の検知機能に依存せず,通信/IOの状態から致命的となる異常兆候を検出する方法
- 汎用プラットフォーム上に多重系を構成し,異常兆候から高速で待機系へ切り替えるメカニズム
- レガシーソフトウェアの機能・性能を維持した新ソフトウェア構造へのモダナイズ方式
今後は複数インフラシステムを協調させることで,環境負荷低減,労働力不足への対応といった社会課題の解決に向けた情報・制御連携クラウドサービスの実現をめざす。
15. マイクロサービス分散トランザクションの強整合性保証
レガシーシステムを複数のマイクロサービスに機能分散するモダナイゼーションでは,システムの外に位置する外部サービスとの連携の柔軟化によるシステム拡張を期待できる一方,分散運用されるシステム全体の整合性を維持する分散トランザクション制御が必要となる。
日立は,基幹系システムにも適用可能な強整合性[ACID(Atomicity,Consistency,Isolation,Durability)特性]を保証するマイクロサービス分散運用基盤HMP-PCTO(Hitachi Microservices Platform-Paxos Commit Transaction Orchestrator)の提供を開始した。本基盤製品は,RDBMS(Relational Database Management System)を代表とする多様なデータリソースにまたがった分散トランザクションをサポートするほか,標準設計様式TCC(Try-Confirm/Cancel)に従った新規サービスの開発もサポートする。
本研究では,TCCに準拠せずに設計された外部サービスも連携可能とすることを目的として,ステート復元の機能性に基づく外部サービスのクラス分類,およびクラス別のトランザクション制御方法を定義し,HMP-PCTOと外部サービスの間のプロキシで同制御を実行するアーキテクチャを実現した。これにより,多様なサービスと連携する金融などの基幹系業務のモダナイゼーションの実現可能性を確認した。
16. 顧客との協創を支えるOSSコミュニティ活動
日本の97%の組織が技術スタックのモダナイゼーションを計画しており,新技術の中心地であるオープンソースにおける日本市場は成長の余地がある。研究開発グループでは,クラウドネイティブのOSS(Open Source Software)コミュニティであるCloud Native Computing Foundationのアンバサダー就任や,OSSのサプライチェーンセキュリティを扱うOpenSSFのワークショップを開催し,分散トラスト基盤であるHyperledger Fabric*のメンテナとして活動するなど,OSSコミュニティで先端技術をリードし,顧客と共に日本市場の拡大を促してきた。こうした実績を基に,OSS活動をさらに強化するため,日立ではOSPO(Open Source Program Office)を設立した。
今後,日立グループ全体でグローバルにOSS活動を推進し,IT分野だけでなくOT分野と連携しながらさらなる成長をめざしていく。
17. 顧客課題を解決する連続変数対応CMOSアニーリング
日立は,大規模で複雑な社会課題解決のカギとなる技術としてCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)アニーリングを開発している。今回,従来扱ってきた2値の変数(1または0)の最適化に加え,連続変数(0から1の間の任意の小数)を用いた最適化計算が可能なCMOSアニーリング技術「relaxed MA」を開発した。一つの連続変数で複数の2値変数を代替することができるため,より大規模な組み合わせ最適化問題を,高精度に解くことが可能となる。
保険会社が保有する複数のリスクを再保険契約によって分散させ,バランスの取れたリスクポートフォリオを構築する,再保険ポートフォリオの最適化業務に本技術を適用して効果を検証した。その結果,従来比約10倍の数の保険契約に対して,期待される収益金額を1円刻みの細かな精度で計算できることを確認した。
今後は,再保険ポートフォリオ設計業務に加え,需給バランスを考慮した電力網の運用効率化,EC(Electronic Commerce)における販売促進施策の最適化,物流計画作成業務の効率向上などに本技術を活用することで,顧客や社会のさまざまな課題の解決に貢献していく。