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シリーズ「EVバリューチェーンのカーボンニュートラル化」(2)

建物のレジリエンス向上に貢献するV2Xシステム開発とカーボンニュートラル化への展望

ハイライト

近年,広域災害に伴う大規模停電の発生と,それによって生じる社会インフラの長時間の機能停止が大きな課題となっており,高層ビル・マンションなどでは生活に必要な水の確保や縦の移動手段としてのエレベーターの継続利用を求める声が高まっている。さらに再生可能エネルギーの拡大やEV普及に向けては,電力インフラの不安定さも課題とされており,需要家における分散電源化や需給調整市場の拡大が進められている。

このような背景から,EVを非常時電源やデマンドリソースとして活用できるV2Xに注目が集まっている。株式会社日立ビルシステムは,V2Xを使用したエレベーターや給水ポンプの非常時稼働の有効性を実証し,さらなるカーボンニュートラルの進化に向けた事業化を推進している。

目次

執筆者紹介

平野 敏史Hirano Toshifumi

  • 株式会社日立ビルシステム 日本事業統括本部 マーケティング本部 GX for Growth協創プロジェクト 所属
    現在,ビル向けのGX戦略立案に従事

小島 涼太Kojima Ryota

  • 株式会社日立ビルシステム 日本事業統括本部 マーケティング本部 マーケティング企画部 所属
    現在,V2Xシステム開発に従事

1. はじめに

昨今,自然災害の激甚化に伴い,厳しい環境においても社会生活を継続可能とするための対策に注目が集まっている。

日本国内では,2022年末時点で分譲マンションストック総数が約694.3万戸に達し,高層ビル・マンション居住者が増加しており,縦の移動手段として必要不可欠なエレベーターの安定的な利用を求める声が高まっている1)。とりわけ東日本大震災以降は,電力ひっ迫による計画停電や節電要求への対応が求められるほか,気候変動に伴う台風の大型化・増加とこれに起因する大規模停電などの影響が長期化することが懸念されており,非常時の電源確保が必要となっている。そのため,非常時の電源として蓄電池や非常用発電機を設置するなど,災害時の備えを強化するレジリエンスの向上は,企業や個人の喫緊の課題であるといえる。

しかし,蓄電池や非常用発電機といった設備は,設置費用が高額で定期点検も必要となるなど,所有者の負担が大きいという課題がある。

こうした中,株式会社日立ビルシステムは,エレベーターの非常用電源として近年急速に普及しているEV(Electric Vehicle)を「走る蓄電池」として活用するV2X(Vehicle to X)※1)システムに対応した充放電装置Hybrid-PCS(Power Conditioning System:直流交流交換装置)を開発し,エレベーターを停電時にも利用できるようにした2)。さらに停電時に最も稼働要望の多い給水ポンプ稼働を実証3)し,建物のレジリエンス向上へ訴求できるソリューションを拡大している。

また,EVの「走る蓄電池」としての可能性は広く,昼間の太陽光発電の余剰を蓄電するリソースとしての役割や,電力の託送,送配電エリアにおける電力需要調整としての役割も期待されており,EVと電力網をつなぐV2Xをキーとしたカーボンニュートラルの進化に向けた事業化を推進している。

※1)
自動車とさまざまなモノとの接続や相互連携を行う技術の総称。エネルギー分野においては,EVと,ビル・マンション,電力網(グリッド)などをつなぎ,電力の相互供給を行うことを可能にするV2Xシステムの実用化が進められている。

2. V2Xシステム対応Hybrid-PCSの概要

本システムの特徴は,Hybrid-PCSのEVバッテリー充放電機能を使用し,EVから三相200 Vの交流電力に変換できる点である。これによりエレベーターや給排水ポンプ,業務用エアコンなど,「動力」と呼ばれる大きな力や電気的容量を多く消費する機器を動かすことができる。

さらに,Hybrid-PCSは太陽光発電設備用と蓄電池用の二つのPCSを一体化した装置である。今回開発したシステムは,EVをつなぐビル側で太陽光発電設備を導入していることを基本として設計していることが特徴である(図1参照)。

図1|太陽光発電・蓄電池・電気自動車を電源として使用可能なV2Xシステムの概要図1|太陽光発電・蓄電池・電気自動車を電源として使用可能なV2Xシステムの概要
注:
略語説明ほか
DC(Direct Current),AC(Alternating Current),IF(Interface)
※1)
CHAdeMO準拠のV2X対応車両。
※2)
CHAdeMOは,CHAdeMO協議会の商標である。
※3)
空調については,今後展開予定である。
本システムは,省エネルギーとレジリエンス向上を同時実現する。

3. Hybrid-PCSからの給電を受け,エレベーターの約15時間の稼働を実現

図2|走行開始時に必要な電源イメージ図2|走行開始時に必要な電源イメージエレベーターは走行開始時に一時的に高い電源リソースを必要とする。

Hybrid-PCSとエレベーターの状態を通信によって相互監視・連携し,通常の走行速度である分速45〜105 mよりも遅い分速30 m以下の低速運転に変更する制御を行うことで,EVを電源とした停電時のエレベーター継続利用を可能にした。

エレベーターは走行開始時に一時的に高い電源リソースを必要とするが,Hybrid-PCSの定格出力は10 kVAであり,定格出力以上の電源を必要とするとエレベーターが急停止し,最悪の場合,利用者をエレベーター内に閉じ込める可能性があった。そのため,EVからの電源供給時は通常よりもエレベーターの運転速度を下げ,運転開始時の電力を小さくするようにエレベーター側の制御開発を行った(図2参照)。

また,常時状態信号を相互監視することにより,EVのバッテリー残量が少なくなった場合は,エレベーターの利用を中止するアナウンスを行い,最寄りの階まで移動して運転を休止するようにした。これにより,エレベーター利用者の閉じ込めを防止することができる。復電後は商用電源に切り替えることで,エレベーターは通常の速度で運転を再開する。EVのバッテリー容量やエレベーターの仕様により異なるが,バッテリー容量20 kWhのEVを用いて,6階建の試験棟内のエレベーターで14時間56分の連続稼働が可能であることを実証した(図3,表1参照)。

図3|EVからの給電の様子図3|EVからの給電の様子バッテリー容量20 kWhのEVを用いて,6階建の試験棟内のエレベーターを稼働させた。

表1|EVからの給電によるエレベーター稼働の実証実験結果表1|EVからの給電によるエレベーター稼働の実証実験結果使用したEVの放電限界である残り10%まで放電し,約15時間後に実証実験が終了した。

4. Hybrid-PCSによるマンション向け自動給水ユニットの稼働実証

図4|日立産機システム習志野工場における実証実験の概要図4|日立産機システム習志野工場における実証実験の概要本図はイメージであり,今回の実証では自動給水ユニットにのみ給電を行った。

Hybrid-PCSでのエレベーター連携について社外発表を行って以降,顧客からは停電時に優先されるのはエレベーターより給水ポンプであるという意見が多く寄せられた。そこで,2023年10月,株式会社日立産機システム習志野工場にHybrid-PCSとバッテリー容量20 kWhのEVを持ち込み,日立製の自動給水ユニット「ダイレクト・ウォータエース」を稼働させる実証を行った(図4,図5参照)。

使用した給水ユニットの定格出力は7.5 kWで,20階建てのマンション(高さ約75 m)への送水と同等の水圧で実施した。

その結果,1時間31分の連続稼働が確認でき,給水量は2万1,171 L※2)となった。これは8,468人分の1日の水分摂取量4),※3),またはトイレ使用4,234回分の水量5),※4)に相当する(表2参照)。

※2)
建築仕様によっては,排水のための排水ポンプの稼働が必要なケースもある。本実証では排水ポンプを必要としないケースを想定した。
※3)
人間が飲食などから1日に摂取することが必要な水量を2.5 Lとして計算した。
※4)
一度に流す水の量を5 Lとして計算した。

図5|日立産機システム習志野工場におけるEVからの給電模様図5|日立産機システム習志野工場におけるEVからの給電模様エレベーターの稼働実証実験時に用いたEVと同等性能のEVを用いて自動給水ユニットの稼働実証実験を実施した。

表2|EVからの給電による給水機稼働の実証実験結果表2|EVからの給電による給水機稼働の実証実験結果 顧客ニーズの高かった給水ユニットの稼働にも適用可能であることを実証した。

5. おわりに

現在,Hybrid-PCSは停電時にエレベーターと給水ポンプを稼働させるBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)ソリューションとして,新築ビルを中心にプロモーションを展開している。

しかし,採用を検討中の顧客の意見からは,機能面について一定の評価が得られている一方,実運用面に導入の課題があることがうかがえる。具体的には,マンションなどの集合住宅では,(1)充電ステーションの利用と課金,(2)非常時活用に際して誰のEVを使用するかという課題がある。(1)については管理者側・利用者側双方の利便性を向上する予約・課金システムの提供会社との連携,(2)についてはEVのカーシェアリングサービスの提供による共同利用の提案を検討している。

さらに,既存のマンションでは導入時の課題として,充電ステーションの設置がEVを所有する一部居住者だけのメリットとなることから,管理組合で採用決断に至らないケースがある。現在このシステムは,新設エレベーターでのみ適用可能であるが,今後は既存エレベーターへの適用拡大を図り,マンションのレジリエンス向上施策としてEV非所有者の生活メリット向上を訴求することで,充電ステーション採用決断の一助となればと考えている。

最後に,今回はEVを活用したレジリエンス向上について述べたが,今後は非常時だけでなく太陽光発電も加えた常時連携により,再生可能エネルギーの有効活用を通じたZEB(Net Zero Energy Building)※5),ZEH(Net Zero Energy House)※6)への対応や,余剰電力をバッテリーに充電し電力需要ピーク時に放電することでのデマンドカットなど,建物の電力需要シフトに寄与するEMS(Energy Management Systems)との融合などを視野に入れ,グリーン社会への貢献と利用者の生活メリット向上に向けた開発を検討していく。

※5)
快適な室内環境を実現しながら,建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることをめざした建物。
※6)
家庭で使用するエネルギーと,太陽光発電などでつくるエネルギーとのバランスで,1年間で消費するエネルギーの量をおおむねゼロ以下にする住宅。