2022年4月,GlobalLogic Japanが設立された。同社では,日本の顧客のデジタル事業を加速し,DXを成功に導くための体制やプロセスを検討・推進している。
ここでは,デザイン主導のデジタルエンジニアリングをリードするGlobalLogicの持つ革新的なナレッジや手法と,日立製作所の豊富なビジネス実績,Lumada Innovation Hub TokyoのDXスペシャリストの持つ国内顧客の事業理解と対応経験を掛け合わせた体制・プロセスについて紹介する。
2022年4月,日本市場の顧客に向けてデザイン主導のデジタルエンジニアリングをリードするべく,GlobalLogic Japan(以下,「GL Japan」と記す。)が設立された1)。
GL JapanはLumada Innovation Hub Tokyo(以下,「LIHT」と記す。)内にオフィスを構えており,GlobalLogicや日立の営業,SE,デザイナー,アーキテクト,プログラムマネージャなど,各分野のスペシャリストがLIHTに集まり,同床化することで融合を図るとともに,日本の顧客に対するDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を行っている。
GL Japanでは,GlobalLogicの持つ革新的なナレッジや手法(以下,「GL-Way」と記す。)と,LIHTのDXスペシャリストの持つ国内顧客への事業理解と対応経験を掛け合わせた体制で取り組んでいる。案件化とデリバリーそれぞれのフェーズでコアとなるロールに,GlobalLogicと,LIHTのDXスペシャリストがペアを組む2 in the boxという体制を作り,日本市場に合わせたプロジェクトの進め方を検討するとともに,2 in the boxにおける役割分担を整理している。GlobalLogicの人財がGL-Wayを日本の顧客に提供しつつ,日本の顧客の事業理解・対応をLIHTのDXスペシャリストがサポートする形で推進している。
GL Japanでは,案件化の段階でヒアリングした顧客の課題の状況を基に,デザイン・エンジニアリング・データサイエンスの経験・実績を組み合わせ,顧客のデジタルジャーニーをエクスペリエンス中心のデザインから最先端のテクノロジーを採用したエンジニアリング,メンテナンス・エンハンスまでE2E(End-to-end)でサポートする。
具体的なサービスオファリングとしては,エンドユーザーが本当に求めているDXサービスを解き明かすアドバイザリー,描いたDXサービスに必要とされる尖った技術をエンジニアリング力で実装するデジタルエンジニアリングの二つがある。また,ラボモデルもオファリングとして提供しており,市場の情勢や顧客の戦略・方針の変更に応じて柔軟かつアジャイルに対応するため,アドバイザリーやデジタルエンジニアリングなどの特定段階の支援ではなく,一連のデジタルジャーニーを総合的に支援する。例えば,必要とされるデザイン+エンジニアリング力を持つGlobalLogicの人財を「DX R&D 組織」として顧客企業の一部門のような形で参画させ,継続的な支援を伴走型サービスとして提供する。
図3|顧客のDX・デジタルジャーニーの実現に向けたサービスオファリング GL Japanは, 顧客のDXに伴走するパートナーとして,デザイン思考による市場分析・戦略立案から開発計画,そして実際に動く「プロダクト」として作ることまでサービスオファリングとして提供する。
図4|GL Japanのアドバイザリーステージ 顧客のビジネスの方向性の探索から市場分析やターゲット分析,最適な製品/サービス開発に向けた戦略の立案,詳細の開発計画まで大きく四つのステージに分け,顧客の状況に応じたステージからアドバイザリーを開始する。
GlobalLogicと日立がそれぞれの強みを持ち寄り,日本市場の顧客へのサービス提供に向けて推進している事例の一つに,株式会社ノジマとの協創活動がある2)。ノジマは店舗におけるユーザー体験を高め,従業員が一人ひとりの来店客に本当にフィットする商品をコンサルテーションすることに集中することをめざし,GL Japanと共に店舗内デジタル施策を検討し,実際の店舗で試行・検証するPoC(Proof of Concept)に取り組んでいる。
このプロジェクトでは,「ストラテジスト」をGlobalLogicの戦略的デザイン事業ブランドである「METHOD」とLIHTのデザインストラテジスト,「デザイナー」をMETHODとLIHTのエクスペリエンスデザイナーが担い,2 in the boxの体制で参画している。
家電を購入するユーザー体験自体が北米と日本では大きく異なるため,ノジマの店舗も接客の仕方も,METHODにとっては未知のものだった。そこで日本のメンバーがMETHODのメンバーに対し,ユーザーとして自身が受けたノジマの店舗での接客などを例に,ノジマが大事にしている接客の仕方をストーリーテリングすることから共同作業が始まった。
GL Japanは顧客とのDX推進を開始する前に,顧客の課題をよく聞き出し,DXのゴールを設定するためのワークショップを実施する。議論の中でノジマからはDXで実現したい三つの観点が提示され,GL Japanは議論を通じてアドバイザリーをどのステージから開始するべきかを判断し,店舗観察とインタビュー調査を含む調査分析から開始する「Stage2 Desirability Led」を提案した。
この店舗観察およびインタビュー調査も,同様の2 in the box体制で推進する。このプロジェクトでは,ノジマの四つの店舗を観察し,10名のノジマ社員にインタビューを行った。ここでも日本側のメンバーがMETHODのメンバーに対し,商品に貼ってあるポップの記載内容の確認など言語面でのサポートを行ったほか,日本の家電にまつわる習慣や,店舗や周辺地域の特徴などをインプットすることで,METHODメンバーの学習を早めた。一方METHODのメンバーは日本の習慣を知らないがゆえ,現場に存在する違和感を見つけ出し,本質的な気づきを提供する。
その後,店舗観察・インタビュー調査から得られた分析を基に,店舗でのユーザー体験を高める20個の施策アイデアを考案した。調査の1週間後には分析結果を共有し,施策アイデアを議論するワークショップを実施した。その2週間後には議論を基に優先度の高いコンセプトに絞り込んだ施策案をノジマの野島廣司社長に提案した。この間ストラテジストとデザイナーに加えてアーキテクトが検討に参加しており,施策アイデアに対し技術視点で実現可能性をフィードバックしている。
このようなユーザーニーズ,ビジネス成立性,技術的フィージビリティの観点での絞り込みは,顧客が実現可能な答えに速く辿り着くために重要なGL Japanの進め方の特徴であり,PoC実施に対するノジマの積極的な経営判断へとつながった。本プロジェクトは2022年12月の時点で継続中であり,実店舗でのデジタル施策の検証が始まっている。
GL Japanは,人財,経験,ビジネスフットプリントなど,GlobalLogicと日立のさまざまな強みを,日本市場の顧客の課題解決にフィットするよう掛け合わせてプロジェクトを提案する。既に金融など複数の業種で,日本市場の顧客のDX実現に向けたプロジェクトを開始している。
図5|店舗調査とアイデア検討ワークショップの様子 店舗調査では,METHODメンバーとLIHTのスペシャリストが店舗に対する理解を深めることにより,DX変革の施策アイデアの候補を探索した。アイデア検討ワークショップでは,GL Japanにて検討した施策アイデアの素案を基に意見を交換し,施策案の優先順位付けを行った。
日立グループが一丸となって日本市場のDXを加速し,社会課題の解決に取り組む中,GlobalLogicとLIHTのDXスペシャリストはLumadaの旗印の下,案件を通じて各種の融合を進めてきた。
今後は事例共有などで日立内でのナレッジ展開も進め,顧客にとって最適な形での協創活動,日本市場のDX推進を支援していく。
本稿で述べた株式会社ノジマとの協創活動においては,店舗視察やワークショップの実施などさまざまな面でご協力を頂いた。また,野島廣司社長をはじめとする店舗の方々および関係各位より多くのご支援を頂いた。深く感謝の意を表する次第である。