2016年に第5期科学技術基本計画で提唱された人間中心の超スマート社会Society 5.0の先行的な実装の場として,スマートシティの試みが各地で進んでいる。
こうした中,東京大学と日立はSociety 5.0の実現に向けて,人中心の持続可能なスマートシティの実装とエネルギーシステムの将来像の構築という二つの領域で共同研究に取り組んでおり,その産学協創スキーム「日立東大ラボ」は,社会課題の解決に不可欠な知の協創のモデルケースとして注目されている。
深刻化する気候変動や国際秩序の変化など,複雑化するグローバルアジェンダ。人口減少という日本社会の新たな局面。それらの克服のカギとなるプラネタリーバウンダリーを超えない社会の維持とウェルビーイング実現の両立へ,東京大学と日立はどのように立ち向かおうとしているのか。東京大学の藤井輝夫総長と日立製作所 取締役会長の東原敏昭が対話を通じて明らかにしていく。
東原日立東大ラボでの共同研究テーマとなっている「Society 5.0」について,本日は藤井総長とディスカッションする機会を頂き,楽しみにしてまいりました。
藤井総長は2021年4月に就任され,9月に新しい基本方針としてUTokyo Compassを発表されましたが,まずはそのねらいからお話しいただけますか。
藤井UTokyo Compassは「多様性の海へ:対話が創造する未来」と題し,「対話から創造へ」,「多様性と包摂性」,「世界の誰もが来たくなる大学」という三つの基本理念を掲げています。私たち人類は,気候変動やパンデミックなどのグローバルアジェンダに加え,ロシアによるウクライナへの軍事侵攻によって多国間主義が揺るがされるという困難に直面しています。そうした状況だからこそ,多様な人々が「対話」する場としての大学の役割が拡大しています。
対話とは,未知なるものを知ろうとする実践です。何かを知るためには問いを立てる力が必要です。その問いを誰かと共有することによって対話が深まり,共に考えるための相互理解と信頼関係が築かれます。学内だけでなく,学外や海外の多様なバックグラウンドを持つ人々と「対話」を通じてさまざまな課題への解決策を見いだしていくこと,および知や未来を創造する場として大学が機能することが,国際社会に対する貢献であると考えています。日立東大ラボのような産学協創の取り組みも,まさに対話により困難な課題に挑む知を創造する枠組みであり,私個人としても注目しています。
東原「対話」は今日の企業活動においても重要なキーワードです。日立は今年で創業から113年になりますが,100年前後までは工場を中心としたプロダクトアウトのビジネスを主体としてきました。ところが近年その流れが大きく変わり,お客様との「協創」の重要性が増しています。協創とは,お客様とビジョンや目標を共有し,その実現のために解決すべき課題を抽出し,われわれのデジタル技術を使いながら一緒に解決していくことです。藤井総長の言葉をお借りすれば,対話のビジネスモデルですね。
プロダクトはもちろん大切ですが,複雑化・大規模化する課題は,従来のアプローチでのものづくりだけでは解決できません。今日の企業は,自社やお客様の目の前の課題だけでなく,もっと広く長期的な視野で社会課題の解決をビジネスに織り込んでいかなければならず,そのためには個別のお客様との協創に加え,複数の企業間や産学官の連携,さらにはNPO(Non Profit Organization:非営利組織)や市民との対話が求められています。
プロダクトアウト中心の時代には,効率化によって生産量を増やし,コストを削減して利益率を高めることが価値につながりました。しかし現在は,消費者が求める価値も社会課題を織り込んだものへと変化し,例えば,値段や品質よりもリサイクル素材を使った製品,原料調達や製造段階における環境負荷や人権に配慮した製品やサービスなのかどうかを重視して商品を選ぶ消費者も現れ始めています。プラネタリーバウンダリー(地球規模の環境課題)とウェルビーイング(心身ともに健やかな暮らしに基づく一人ひとりの幸せ)がビジネスの重要なキーワードとなる中で,それらを織り込んだ新たな視点の獲得や発想の転換につながる産学協創を私も重視しています。
藤井私たちが直面する最大の社会課題はやはり気候変動だと思いますが,現在の状況は「気候変動(Climate Change)」というよりも「気候危機(Climate Crisis)」であり,その対策は従来の延長線上で考えていたのでは間に合いません。社会・経済システムや産業構造を根本的に変えなければならず,UTokyo Compassでもグリーントランスフォーメーション(GX)を行動計画の柱の一つとして位置づけ,グローバル,国内,大学内の三つのレイヤーで取り組んでいます。
グローバルでは,東京大学グローバル・コモンズ・センター※1)が中心となって「グローバル・コモンズ・スチュワードシップ指標※2)」を作成・発表しています。それによって地球環境を守るための国際的な政策議論を喚起し,各国社会のさまざまなレベルで行動変容を促すことをめざしています。
国内では,東原会長をはじめ国内企業13社のトップの皆さんと一緒に,2050年カーボンニュートラルをめざした日本のエネルギートランジションについて検討するイニシアチブ,ETI-CGC(Energy Transition Initiative-Center for Global Commons)を立ち上げました。カーボンニュートラルとウェルビーイングを同時に実現するためのパスウェイを検討し,政策提言なども行っていく計画です。
大学のレイヤーでは,UNFCCC(United Nations Framework Convention on Climate Change:国連気候変動枠組条約)事務局が主催する国際キャンペーン「Race to Zero」に大学部門のパートナーとして参加し,2050年までにネットゼロ達成をめざすという目標を共有しています。その実現に向けた行動計画として,2022年10月に「UTokyo Climate Action」を策定・公表しました。今後はこの計画に基づき,学生と教職員が一丸となって東京大学自身のサステナビリティを強化していきます。
東原GXに関する政府の動きでは,内閣総理大臣を議長とする「GX実行会議」が2022年7月に初会合を行いました。エネルギー供給に課題が生じている中で,2050年カーボンニュートラルに向けて必要な施策は何かを検討し,今後10年間に官民合わせて150兆円を投じる計画の工程表がつくられています※3)。
産業界のアプローチとしては,経団連ではエネルギー源の抜本的変革,生産プロセスの革新,運輸・民生部門で脱炭素化を進める革新的製品の普及,人々の行動変容や生活様式の転換などにより,新しい経済社会「Society 5.0 with Carbon Neutral」の実現をめざすとしています。
東原エネルギー源の抜本的変革は,短期と中長期に分けて考えることが大切です。長期的には再生可能エネルギーの拡大が必要ですが,原子力発電所の再稼働が進まなければ2030年には電力不足に陥ります。安定的な電力確保に向け,原子力発電をベースロード電源としてしっかり位置づける電源構成としなければなりません。火力発電については,水素やアンモニア混焼などによるCO2排出削減を進めつつ,削減の道筋を明確にするべきですね。同時に,CCS(Carbon Capture and Storage)やCCUS(Carbon Capture Utilization and Storage)の基礎研究を進め,2040年頃から10年程度で社会実装するといった長期的な取り組みが求められます。
需要側では節電の推進に加えて地域,工場,オフィス,家庭などで再生可能エネルギーを導入し,蓄電池やAI(Artificial Intelligence)を活用したエネルギーマネジメントを行う分散型電源の拡大がカギになるでしょう。
カーボンニュートラルだけにとらわれず,地球全体のシステム,生態系をどう持続していくかという視点を持つことも重要です。原料・材料から工場やオフィス,輸送,製品やサービスの使用,廃棄・リサイクルに至るそれぞれの段階での環境負荷について,グローバルかつトータルに考える時代になっています。環境負荷を低減するためのさまざまな技術を,国内だけでなくアジアやグローバルサウスなどの地域で活用していく必要があります。
藤井おっしゃるように全体的な視点を持ち,科学的に議論することは大切です。サステナビリティに関する組織の情報開示フレームワークも,TCFD(Taskforce on Climate-related Financial Disclosure:気候関連財務情報開示タスクフォース)からTNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures:自然関連財務情報開示タスクフォース)へと拡大し,サプライチェーンのCO2排出量だけでなく,バリューチェーン全体での自然環境や生物多様性に関するリスクと機会を評価し報告することが求められています。調達や生産における人権問題,食糧問題なども考えると,企業や組織の活動に関連するものすべてをモニタリングし,データとして計測・指標化するための研究も進めなければならないでしょう。
東原効果的な対策には可視化と分析が不可欠ですね。そのためにもデータ収集と分析のプラットフォームが必要です。EU(欧州連合)では企業間のデータ連携を支える統合データ基盤「GAIA-X」を構築するプロジェクトが進んでいますが,日本でも国内やアジア諸国の企業と統合的なデータ収集・連携,さらにサービス提供までつなぐオープンなプラットフォームについて議論を進めるべきではないかと思っています。
東原プラネタリーバウンダリーと並んで日立が重視している概念であるウェルビーイングは,人間中心の超スマート社会Society 5.0においても重要なキーワードとなっています。Society 5.0の先行的な実現の場としてスマートシティが注目されていますが,東京大学の先生方や当社も参画しているスマートシティ・インスティテュート※4)では,ウェルビーイングを「心ゆたかな暮らし」と定義し,その向上をめざすスマートシティの取り組みを支援しています。各地域での施策に活用していただくため,市民の幸福感を高めるまちづくりの指標としてわが国独自の「Liveable Well-Being City指標」を開発しました。
スマートシティというとゼロからつくるグリーンフィールドのイメージを持たれがちですが,デジタルとデータを活用して既存の都市を変革するブラウンフィールドが現実的な解であろうと思っています。例えば,兵庫県加古川市では,犯罪率の低下を目的に見守りカメラの導入を検討した際に,市民の声を受けてビーコンタグを組み合わせた子どもや高齢者の見守りサービス※5)を合わせて導入し,住みやすさを向上したことで注目されています。スマートシティの成立要件は,(1)リーダーシップ,(2)取り組みの目的とKPI(Key Performance Indicator)の明確化,(3)市民参加の三つが必要となりますが,加古川市の場合,(1)市長,(2)犯罪率の低下や見守りサービスの導入,(3)Webサイトで市民の声を広く収集する仕掛けの導入と要素がそろっていたことが成功の要因であると思います。
ブラウンフィールドの利点は,住民の声を取り入れながら改革が進められる点です。近年は社会課題を自分事として捉え,主体的にまちづくりに参加していこうと考える方々が増えていますから,ブラウンフィールド型のスマートシティがSociety 5.0への起爆剤になるのではないかと期待しています。企業サイドとしてもデジタル技術の活用などでその動きに貢献していきたいと考えています。
藤井私たち大学には多様な人々が集まりやすいという特性がありますから,市民参加やステークホルダーをつなぐ「場」としてお役に立てるのではないでしょうか。
Society 5.0に関しては,人間中心の社会と言ったときの「人」とは誰のことなのかを明確にすることが大切ですね。冒頭で東原会長がおっしゃったように,20世紀型の産業はどちらかというと生産者側の視点で発展してきましたが,21世紀になりデジタル化が進み,プロダクトやサービスの利用者側の視点,価値基準が重要になってきました。
そのことはスマートシティの議論とも通底し,社会インフラ,医療や教育など公的サービスの領域でも,利用者側の視点への転換が求められています。医療では患者さんにとっての価値は何か,私たち教育現場では学生が本当に学びたいことを学ぶには何が必要なのかを問い直さなければなりません。サービスの提供側と利用側が一緒に,まさに対話しながら,課題やサービスの価値について考える時代になっています。
藤井私自身は長く海洋に関わる研究をしてきており,最近では,低コストの海洋観測システムを活用した大規模海洋観測プロジェクトOMNI(Ocean Monitoring Network Initiative)を立ち上げ,推進してきました。デザインの力を使うことで,研究者だけでなく一般の方々も巻き込みながら,海水温や塩分濃度など,海のさまざまなデータを計測できるセンサーデバイスやデータプラットフォームを開発し,海洋観測を行おうとするプロジェクトです。例えば小中高生に向けたワークショップを開催し,観測装置のアイデアを出し合うなど,プロジェクトへの参加を通じて海洋環境を自分事として考えてもらいます。観測に参加する人が増えると,取得できる海洋データの量が増えて解像度も高まり,同時に,問題意識を共有して一人ひとりの行動が変わっていく可能性があります。私はこのプロジェクトが市民との対話による課題解決のモデルケースになることを期待しています。
ウェルビーイングも,人から与えられるものというよりは,社会をよりよくすることに個々人が主体的に関わることで得られるものではないかと思うのです。
東原そうですね。ウェルビーイングは個人個人で異なりますから,皆がそれぞれ自分にとっての幸せを追求していると,限られた空間の中で複数の風船を一斉に膨らませるように,ぶつかり合うこともあるでしょう。そのときに相手の立場で考えられるのか,共感し合えるのかが問われます。プラネタリーバウンダリーの問題も同じで,ゼロサムではなくWin-Winを考えることが重要です。
そうした視点で地域の自治体,企業,大学,住民が連携して地域課題の解決に取り組み,それらの地域がデジタル田園都市国家構想でシームレスに連携しながら,全体として最適化されていく。それによって結果的にウェルビーイングが向上していくのではないでしょうか。
藤井地域との連携は私たちも重視しており,最近では2022年11月に和歌山県と包括連携協定を結びました。学術研究や人財の交流・育成を通じて地域課題の解決や個性豊かな地域社会の形成に寄与することをめざしています。
都道府県レベルで協定を締結したのは三重県,福島県に続いて3県目となりますが,もともと和歌山県では本学の複数の学部が研究活動をしてきました。私が所属していた生産技術研究所では和歌山市加太に地域ラボを置いて地域活性化などにつながる研究を行い,先端科学技術研究センターは高野山真言宗総本山金剛峯寺や高野山大学,高野町と連携して高野山会議を開催,また人文社会系研究科では新宮市と連携協定を結んで,分室を設置,熊野フォーラムなどを開催しています。人文社会系研究科は北海道北見市とも協定を結んでおり,新宮市を含めた連携を進め,地域間の比較文化研究なども深耕していく計画です。
そのほかにも,学生を地方自治体に派遣して地域課題の現地調査を行い,教職員も協力しながら課題解決に向けた道筋提案を行う「フィールドスタディ型政策協働プログラム」を実施しています。2022年度は全国で19の自治体・地域に協力していただきました。
東原人間中心の社会を実現するうえで不可欠な観点として,ダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包摂性),最近はそれにエクイティ(公平)を加えたDEI(Diversity,Equity and Inclusion)という概念が注目されていますね。人口減少局面に入った日本が活力を維持していくためには,企業も社会もこれまで以上にグローバル化と多様化を進めることが欠かせません。その布石として,当社では2030年までに執行役と理事の女性と外国人の比率を30%まで押し上げることを宣言しました。
エクイティはイコーリティ(Equality:平等)とは異なり,違いを尊重したうえで不均衡を調整することをいいます。単純に一律のルールを当てはめるのではなく,ローカルの文化や歴史,個人の特性を理解してそれぞれに合わせたルールづくり,あるいは支援を行い,公平な環境を築くことが,誰一人取り残さない社会につながります。つまり相互理解ですね。まずは相手の価値観を理解し,受け入れ,次にこちらの価値観も理解してもらう。小さなことかもしれませんが,その順番が大切だと私は思います。
藤井同感です。対話による信頼関係を築くには,おっしゃるような他者への理解,リスペクトが欠かせません。私たちも,冒頭で申し上げたように「世界の誰もが来たくなる大学」をめざしています。多様なバックグラウンドの方々を受け入れることはビジネスだけでなく学問の世界でも重要で,研究レベルを高めるには多様な視点での議論が必要不可欠です。DEIは,Society 5.0やウェルビーイングというこの対談のテーマにも通底する,本質的な価値であると思います。
人口減という局面において大学に求められることの一つが,国内の活力維持につながる多様な人財の育成と活用です。その施策の一環として,2027年度までに女性教員300名を採用することをめざしています。女性教員の比率を高め,活躍を後押しすることで女子学生の増加につなげたいという期待もあります。また留学生を増やすことも,日本への理解や関係が深い人財の育成や,国内の多様性向上に貢献できると考えています。
さらに,ディスアビリティインクルージョンも欠かせません。本学には車椅子などで通う学生もおりますし,先端科学技術研究センターでは,障がいや病気を持つ本人が,症状や日常生活上の苦労など,自分の困りごとについて研究する当事者研究に取り組んでいます。教育・研究の環境をインクルーシブにすることは,イノベーションの促進につながるだけでなく,他の組織のモデルケースにもなりうると考えています。
東原DEIについては,意識改革とともに技術面での実現も課題ですね。例えば,メタバースのような新しいデジタル世界では,年齢や性別,端末さえ操作できれば身体状態も関係なく,住んでいる場所や時間の制約もなくコミュニケーションや仕事,勉強が可能です。視覚・聴覚だけではなく,触覚,嗅覚,味覚なども仮想体験できるようになれば,体感的に歴史を学んだり,技術や技能を習得したりすることも可能になるかもしれません。
一方で,こうした新しい技術にはメリットとデメリット,「倫理」の問題もつきまといます。一種のフェイクである仮想現実というものをどこまで許容するのか。遺伝子組み換えやゲノム編集,再生医療など,進歩する技術における倫理については当社でも研究者・技術者への教育を行っていますが,社会の中で議論をしてアセスメントなども行いながら,しっかりとしたルールづくりを急ぐべきだと思います。
藤井科学・技術の倫理的・法制度的・社会的課題はELSI(Ethical, Legal and Social Issues)と呼ばれて学術的な研究テーマとなってきました。また近年,EUでは「RRI(Responsible Research and Innovation):責任ある研究・イノベーション」という概念が注目されています。
遺伝仕組み換え食品の問題に象徴されるように,新しい技術を社会実装するときには不安や科学への不信感が生じることがあります。それを防ぐには,科学者だけの閉じた議論ではなく,研究開発の初期段階から一般の皆さんと対話することが大切です。「責任」とは倫理を包摂する概念ですが,研究の責任と言ったときに,「科学的知識を創造することに対する責任」と,「科学的知識を使うことに対する責任」という二つの側面があると思います。科学者,研究者はその両面での責任を果たすことが求められることから,UTokyo Compassで掲げる20の目標の一つにも「責任ある研究」を掲げています。
藤井新しい技術の倫理という問題,またコロナ禍やウクライナ侵攻後の新たな国際秩序,気候変動などのグローバルアジェンダを前に,私たちが取り組むべき課題は山積しています。御社をはじめとする企業と,私たち大学がそれらに連携して挑むことで,課題克服の可能性が高まることを本日の議論を通じて再認識いたしました。
複雑化する課題に対応するため,大学として力を入れているのは学生の現場体験です。社会を知ることで,課題を自分事として取り組む視点を養ってもらいたいと考え,国内外でのインターンシップを支援しています。また,スタートアップも課題解決へのイニシアチブとして重視しています。本学では,テック系だけでなくソーシャル系のスタートアップ,例えばグローバルサウスの現場で社会貢献ビジネスをしたいといった目標を持つ学生も多くおり,大学としても何らかの形でサポートしていくことを考えています。
東原先ほど大学での人財育成というお話がありましたが,グローバルアジェンダに挑む人財の育成は企業においても重要です。グローバルな視点で社会課題を自分事として捉え,相互理解により人を巻き込みながら課題を解決していく。そのような人財の育成に向け,インターンシップというだけでなく,こちらからも大学に学びに行く,大学の研究者もこちらに来ていただくなど,相互交流を進めて社会課題を一緒に解決していく関係を構築できれば幸いです。
藤井それはぜひお願いしたいですね。大学での人財育成でも,これからは自分の専門分野だけでなく他の専門も理解できる,あるいは他の専門の人とチームを組んで研究する力を養う必要性を感じています。そうした力を養ううえで,企業との交流は効果的なはずです。
東原そう考えると日立東大ラボの役割はますます大きくなりますね。Society 5.0の実現に向けて市民の声を取り入れながら分野横断的な研究を行っているのは注目すべきことで,企業と大学,さらに多くのステークホルダーを巻き込んだ活発な議論と交流を促す「対話の場」として一層発展させていかなければなりません。社会課題の解決を通じて,プラネタリーバウンダリーを超えない社会の維持と,一人ひとりのウェルビーイングを実現した社会の両立をめざす日立グループにとって,たくさんのヒントがここから生まれることを期待しています。本日はありがとうございました。