イベノーションの源泉として,AIの重要性が拡大している。急速に進化するAIは暮らしや社会にさまざまな恩恵をもたらす一方,その活用においては,いかにしてリスクを低減し,安全を確保するかが課題となっている。 こうした中,日立はAIの安心・安全な活用に向け,独自の「AI倫理原則」を策定した。日立評論2021年特別増刊号では,社会イノベーション事業におけるAI活用のガバナンスおよび倫理という観点から,日立の取り組みを紹介する。
急速な進化を続けるAIが社会や暮らしの隅々にまで普及することによって,私たちの世界はどう変化するのか。AIがもたらすリスクを低減し,安全・安心を守りつつ活用するために欠かせない倫理,そしてそれを踏まえたアプローチとは。
「信頼」というキーワードの下,新たなテクノロジーの導入に向けたガバナンス強化の観点なども交えながら, 世界経済フォーラム(WEF)のAI部門を統括するKay Firth-Butterfield氏と,日立製作所の鈴木教洋研究開発グループ長が語り合った。
2021年7月,経済産業省はAIの社会実装の促進に必要なAI原則の実践を支援する目的で,AIガバナンス・ガイドラインを公表した。日立においてもAI倫理原則を策定し,その実践に向けた取り組みを開始している。
2021年10月に開催されたHitachi Social Innovation Forum 2021 JAPANでは,AIガバナンス・ガイドラインの作成をリードした経済産業省の泉卓也氏を招き,AI倫理を実践するうえで政府や企業含むマルチステークホルダー間でどのように協調すべきか,意見を交わした。
従来,安全,プライバシー,公平性,透明性・説明責任,セキュリティなど,さまざまなAI倫理上の観点が指摘されてきた。欧州のAI規制案や経済産業省のAIガバナンスガイドラインが公開されるなど,原則のみならず,ガバナンスの実践へ向けた動きが急速に活発化している。
これに対し,日立は2021年2月に発表した「社会イノベーション事業にAIを活用するためのAI倫理原則」に基づき,研究・PoC・製品開発・保守運用に至る各段階で,ガバナンス確立のための取り組みを実践している。
AIやデジタル化によるイノベーションは,従来のトラストやガバナンスの概念を大きく変えようとしている。日立はこれまで,デジタル社会におけるトラストとガバナンスのあり方を検討してきており,世界経済フォーラム,経済産業省と共同でトラスト・ガバナンス・フレームワークを策定している。また,総務省AIネットワーク社会推進会議に参画し,AIの社会・経済に与える影響やリスクを評価するとともに,AIのガバナンスの検討を進めてきている。
AIは社会イノベーション事業を推進する強力なツールである一方,その特性上,安全性・公平性・透明性・倫理的観点への配慮が不可欠である。これらの点に配慮しつつ,AI技術の社会適用を行い,Society 5.0の実現をリードしていくことが,日立の重要な使命であると考えている。
日立は,Lumadaを中核とした社会イノベーション事業を顧客協創により推進することで,これを実現しようとしている。